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 女子シングルスは大坂なおみ選手が2度目の優勝を飾った、テニスの全米オープン2020。米国ニューヨーク市で、現地時間の2020年8月31日から9月13日まで開催された今大会は、新型コロナ禍のために無観客で実施された。この異例の開催方式は全米テニス協会(USTA)と提携し、30年近くデジタルエクスペリエンスを提供してきた米IBMも新たな対応を迫られることとなった。しかも、開催が決定されたのは6月のことで、準備期間はわずか11週間しかなかった。

 これまでUSTAとIBMは、膨大な情報を分かりやすくファンに伝えるために大会サイトや専用アプリを開発・提供してきた。しかし、無観客ではその多くが使えなくなってしまった。例えば、大会会場案内などは当然無用だ。一方、会場に行けないファンに適切な情報を素早く提供し、さらに注目を集め続ける施策は強化する必要があった。USTAのデジタル戦略ディレクター、カーステン・コリオ氏は「本来なら会場にいるファンにどう関与すべきか。そして、全米オープンに初めて参加する可能性のあるカジュアルなファンのために、大会をもっと面白くするにはどうすればよいか」という2つが課題だったと話している。

全米テニス協会と米IBMの提携に関するプレスリリース
全米テニス協会と米IBMの提携に関するプレスリリース
(図:全米テニス協会、IBM)
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 この対応で活用されたのが、同社のAI(人工知能)技術「Watson」だ。Watsonはこれまで、会場案内機能などにも使用されてきたが、中でも近年活用されていたのが試合のハイライト映像の生成だった。これは観客の歓声や選手のジェスチャー、ラリー回数などから試合が盛り上がった場面をAIが抽出して自動的に編集するというものである。が、無観客ではこの機能が使えなくなってしまった。

 しかしIBMは、この機能のためのデータを別の目的のために転用した。テレビ中継やスタジアムで実際に流された、バーチャルなスタジアムの音声の生成だ。過去の全米オープンでの音声をWatsonに学習させ、さまざまな場面をインデックスライブラリー化し、状況に合った音声をリアルタイムに送出できるシステムを構築したのだ。歓声だけでなく、ファンのざわめきや会話、スイートボックス(今大会期間中、選手たちに割り当てられた個人的なラウンジとして使える特別なボックス)のドアが閉まる音まで再現できたという。さらにノバク・ジョコビッチ選手が5セット目のマッチポイントを握ったときなど、細かな状況までWatsonは再現できるとした。

 この機能について同社のスポーツ・エンターテインメント部門プログラムマネジャーのジョン・ケント氏は、ファンだけでなく出場選手のためにも開発したとし、「選手の視点から見ると、スタンドにファンがいて応援しているのが普通なんです」とコメントしている。