米スポーツ界でIT(情報技術)大手のAmazon.com(アマゾン・ドット・コム)のクラウドサービス、Amazon Web Services(アマゾン ウェブ サービス、AWS)の存在感が増している。
2022年1月14日、プロアメリカンフットボールのNFLとAWSはAI(人工知能)を使ったコンペティション「第2回 AIチャレンジ」の結果を発表した。これは同リーグで問題となってきた頭部のけがに対する理解を深め、それを減らすために行ってきた活動を強化することを目標としたコンペだ。
21年の第1回ではフィールド上でヘルメットに加わる衝撃を検知する方法の開発がテーマに選ばれ、約7800の応募があった。
今回は21年の結果から、NFLの試合映像を使って頭部への衝撃を受けた選手をコンピューターが自動的に識別し、ケガを分析する方法の開発がテーマとして設定された。
NFLではこれまで、試合後のビデオを1フレームずつ確認し、すべての重大な負傷について150種類の変数の記録を手作業を行っていた。NFLはこのデータを使って、ルールの変更、防具の改良、コーチングやトレーニングの戦略などに役立てている。
人間の83倍の速度で分析
今回は、応募に対して65カ国から1000人以上のデータアナリストが参加した。最優秀賞に選ばれたのは大阪府在住のマツダ・キッペイ氏で、賞金5万米ドル(約570万円)が贈られた。
同氏が開発したのはコンピュータービジョンモデルである。分析プロセスを自動化し、レビューをより包括的で正確なものにして、人が手動で分析を行う場合に比べて83倍の速度で行うことを可能にした。NFL 健康イノベーション担当上級副社長のジェニファー・ラングトン氏によれば、これまで3~4日を要していた作業が、2時間に短縮できるという。
マツダ氏はNFLに対し「私が今まで経験した中で最もエキサイティングなコンペティションでした」「コンピュータービジョンが2Dイメージでオブジェクトを見つけることはごく一般的なタスクですが、このチャレンジではフィールド上の選手たちの3次元(3D)位置といったより高次元のデータを考慮することが求められました。NFLの動画を見るのも楽しかったです」とコメントしている。ちなみに2位も東京都在住のイトウ・タクヤ氏で、上位2つを日本人が独占することとなった。
AWSは18年にNFLと契約し、「ネクスト・ジェン・スタッツ」(次世代統計)と名付けられた詳細な統計情報の収集と分析、データ提供を行ってきた。選手の走るスピードや走行ルートなどのリアルタイムでの表示はもちろん、21年からはラン獲得距離の予想、特定プレーの成功可能性予測なども提供されるようになるなど、アップデートが続けられている。
さらにさまざまな要改善テーマに沿ったアイデアを募り、優勝決定戦の「スーパーボウル」開催時にコミッショナーなどの前でプレゼンを行うコンテストや革新的なヘルメット関連技術を募る「ヘルメット・チャレンジ」など安全性向上コンテストも共同開催している。AIチャレンジはその一環である。