全2169文字

 米国でスマートフォン(スマホ)を利用してスポーツの指導が受けられるサービスに10社を超える企業が参入している。それも対象がトップアスリートやコーチだけでなく、ユースなど草の根レベルにまで広がっているのが特徴だ。

 サービスの基本はほぼ共通しており、スマホでプレーする姿を撮影すると、モーションキャプチャー技術によって選手の動きがバイオメカニクス(生体力学)的に分析される。さらにボールなどの動きも精密にトラッキングしたうえで、得られたデータからAI(人工知能)がより良いプレーができるように指導するという仕組みだ。

 手軽なサービスとして展開できるようになった主な要因は、モーションキャプチャー技術の進化にある。これまで、同技術を利用するためには被験者の体に指標として認識するためのマーカーを装着しなければならなかった。それがマーカーを装着せずに画像を認識できるマーカーレスモーションキャプチャーが登場し、広く利用できるようになった。AIの機械学習技術が進化し、さまざまなデータから高度なアルゴリズムを作成できるようになったことが背景にある。

 さらに見逃せないのはスマホ自体の進化だ。高精細を保ったまま1秒間に240フレームといった動画を撮影できるようになった。この2つがあってこそ、幅広い展開が可能になったのである。

 こうした技術の進化のみならず、適切なトレーニングができるようなコーチングプログラムや有名選手などのプレーと比較できる豊富な動画ライブラリー、他の参加者と競ったり、コミュニケーションがとれたりするコミュニティー機能が統合されるようになったことが、より身近なサービスにできた要素となっている。

ノーラン・ライアン氏が出資

 この分野の先駆け的存在なのが、米Nex Teamが提供する「HomeCourt(ホームコート)」である。2019年に登場したHomecourtは、米Apple(アップル)のiOSに対応したバスケットボール専門のサービスで、ドリブルやシュートの様子をスマホで撮影するとそれらの回数やシュートのスピードなどを分析し、表示する。

バスケットボール向けの専用分析サービス「HomeCourt」のWebページ
バスケットボール向けの専用分析サービス「HomeCourt」のWebページ
(出所:Nex Team)
[画像のクリックで拡大表示]

 さらに同社はプロバスケットボールリーグのNBAと戦略的パートナーシップを結んでいることでも先駆的だった。リーグを通じてプレー技術の指導やシュート競争などさまざまなコンテストをオンラインで実施することで、ただ単にプレーの質の向上を目指すのではなく、ファンのエンゲージメント向上にもつなげているのである。

 この成功を受け、同分野には参入が相次ぐようになった。例えば野球を専門とするサービスを提供する米Mustard(マスタード)に対しては、MLBの伝説的投手ノーラン・ライアン氏や現役スター投手のクレイトン・カーショー氏などが出資している。同社のサービスは、彼らのプレー動画を豊富に使えるだけでなく、ライアン氏などを指導したことで知られるコーチ、トム・ハウス氏が持つデータベースや経験を活用してAIのコーチングが受けられることを売りにしている。ハウス氏は「私がエリートアスリートに与えるすべてとおなじものを受けることができます」とその利点を強調している。

野球専用の分析サービス「Mustard」のWebページ
野球専用の分析サービス「Mustard」のWebページ
(出所:Mustard)
[画像のクリックで拡大表示]

 また、同じ野球専門サービスに米ProPlayAI(プロプレーAI)が展開するサービスがある。同社はトロント・ブルージェイズなどMLBの3チームと契約し、独自のマーカーレスモーションキャプチャー技術を開発し、その精度を宣伝している。