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 スポーツでのけがの防止やプレーの改善のために、選手の動きや負荷、衝撃などを測定するための技術開発が進歩している。

 これまで、こうしたデータの測定にはウエアラブルセンサーを身体に装着することが多かった。ところが、米ニューヨーク市ブルックリンに本社を置くスタートアップ企業、Nextiles(ネクスタイルズ)は、本当に「着られる」機器の開発を行っている。衣服や他の素材に回路を織り込み、電気的特性を持たせることで、布製のセンサーを作るというものだ。

 同社の創業者で、米マサチューセッツ工科大学(MIT)にて生体工学の博士号を取得しているジョージ・サンCEO(最高経営責任者)は「私たちは材料科学の会社です。材料を作っていますが、導電性材料をつくること自体は新しくありません。我々が持っているIP(知的財産)は、“どのようにしてセンサーや回路になるようなパターンで織ったり縫ったりするか”にあります」と語る。

 同社は2022年1月、野球専門トレーニングテクノロジー企業の米KineticPro Performance(キネクティック・プロ・パフォーマンス)と共同で、最初の製品となる野球用エルボースリーブ「KP Sleeve」を発表した。野球が対象となったのはMLB(メジャーリーグ)の投手の下でインターンをしていた学生と出会い、その投手のためにスリーブを何度か試作したことがきっかけだという。機密保持契約で名前を明かしていないその投手は、最終的に同社設立のために出資をしてくれたとのことだ。

 KP Sleeveのデータ収集パッチは肘の内側から外側に広がり、前腕と上腕三頭筋を広くカバーするようになっている。さらに上腕の裏側には、加速度計など従来式のIMU(慣性計測装置)とBluetooth送信機、小型バッテリーを格納する着脱式の小型ポッドが装着されている。これによってアルゴリズムによる計算ではなく、より直接的な計測が可能だ。サン氏は「私たちが測定している指標は機械的なもので、布の伸び、布の曲げ、布のねじれなどを測定しています」と解説する。

Nextilesの導電性繊維を使ったエルボースリーブの構造例
Nextilesの導電性繊維を使ったエルボースリーブの構造例
(出所:Nextiles)
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 元マイナーリーグの投手で、KineticPro Performance創業者のケイシー・マルホランド氏は「彼らの技術によって、一日の負荷を計算するためのデータポイントが提供されます。このスリーブが我々を特別な存在にしているのはアスリートの負荷管理と投球を予測するための計算に関し、多くのフィルターと構造を有していることです」とNextilesの強みを強調した。

 Nextilesは現在、さらに腕と膝用の加圧式製品を生産中で、地面の反力などを測定できるセンサーを織り込んだ靴下の開発も行っているということだ。

 一方、Nextilesのチーフ・ビジネス・オフィサーのジョン・ピーターズ氏は「これまでの使用例はすべて身体に装着するものでしたが、我々は自分たちの技術をウエアラブルテクノロジーとは呼びたくない。実際、ウエアラブルではない伝統的なアイテムを使ったプロジェクトも数多く進行しています」と話す。

 そうしたコンセプトの1つは、選手の動作データ収集などに使用されるフォースプレートと呼ばれるデータ収集装置を代替するものだという。ピーターズ氏は「よりモジュール化され、より可動性の高いフォースプレートを開発しています。フォースプレートは非常に重く、輸送費もかかり、設置も必要。一方、私たちの開発品は圧力マットを使っているため、バスタオルを敷くようなものです」と明かしている。

 Nextilesの技術が進んでいけば、ウエアラブルや使用シーンが限定されない幅広い展開が可能となりそうだ。