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全日本空輸(ANA)グループが全ての職場の全ての業務でデジタル技術の活用に乗り出した。1000億円を投じてIT基盤も刷新した。将来を見据え、航空産業の枠組みを打ち破る先行投資も進める。国内最大手の航空グループにおけるデジタル戦略を追った。

ANAグループはデジタル活用を支えるITインフラを大規模刷新中だ。主要システムのデータを集約するデータベースを作り、データセンターも新設した。クラウドを全システムの前提にして、基幹系の移行も目指す。

 「本日もご利用ありがとうございます。先日は便が遅れて申し訳ありませんでした。お飲み物はいつもの赤ワインでよろしいでしょうか」――。

 店員がなじみ客の来店歴や好みを覚えておいて、それに沿ったきめ細かいサービスを提供する「おもてなし」。高級旅館や小規模経営の飲食店などでは当然のように行われている取り組みに、年間延べ5000万人超の乗客を抱えるANAグループが挑む。便や空港、時期を問わず、どの空港スタッフや客室乗務員でもきめ細かいサービスを均質に提供できるようにして、競合との差異化を図る。

 実現の鍵を握るのが2018年10月に稼働させた「CE基盤」だ。ANAグループの乗客について予約からチェックイン、搭乗に至るまでのデータを格納したシステムである。

 ANAグループはこれまでも顧客データベースを活用していた。典型的なのはマイレージ組織「ANAマイレージクラブ」の会員データベースである。

 氏名や連絡先といった基本情報に加え、過去の搭乗便データなどを蓄積している。会員数は3200万人を超え、消費者向け企業が持つ顧客データベースとしては国内有数の規模だ。

 ただ、マイレージ会員データベースだけでは先に述べたようなきめ細かいサービスは実現しにくい。例えば訪日客がANA便を使う場合、提携する他社のマイレージに加算する場合が多く、ANAのマイレージ会員データベースには利用履歴などの情報を蓄積できなかったからだ。また部門間の連携が十分でなく、「客室乗務員が残したお客さまの記録をコールセンター部門が参照したり活用したりできないこともあった」(ANAの野村泰一デジタル変革室イノベーション推進部部長)。

図 顧客サービス強化に向けた課題
図 顧客サービス強化に向けた課題
マイレージ会員データベースだけでは限界が
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 乗客のステータスは「新規予約」「予約変更」「チェックイン」「搭乗」「遅延」などと頻繁に変わるため、一般的なCRM(顧客関係管理)システムはなじまないという事情もあった。そこでANAグループの全部門が共通の顧客情報を参照しながら、顧客サービスや分析、戦略立案などに活用できるシステムとしてCE基盤を構築した。

仮想の巨大データベースを構築

 CE基盤は30億~50億円を投じて2018年10月に稼働させた。開発着手からの期間は9カ月だった。この規模のデータベースシステムを構築するには破格の安さと期間だ。

 カラクリはCE基盤の構造にある。膨大な顧客データを収容する巨大データベースを新規に構築せず、仮想データベースサーバーの方式を採ったのだ。マイレージ会員管理システムや旅客系システム、運航系システムなどに分散しているデータベースを、アプリケーションから見て単一のデータベースとして扱えるようにしたわけだ。

 CE基盤は3層構造だ。最下層は仮想データベースサーバー。その上の中間層が「利用履歴」「顧客サポート」といった用途ごとに構築したコンテナである「アプリケーション部品」。最上位層が空港係員の端末や客室乗務員のiPad、ANAのWebサイトなどとデータをやりとりするAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)である「ゲートウエイ」である。

図 ANAグループが運用を始めた「CE基盤」のイメージ
図 ANAグループが運用を始めた「CE基盤」のイメージ
複数のデータベースを束ね、データ分析・活用しやすく
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 構築はIT部門が主導し、「お客様情報基盤プロジェクト」と名付けて進めた。システム開発と並行して空港や客室、コールセンター、マーケティング、顧客満足(CS)、商品戦略などの部門から社員もプロジェクトに巻き込み、システムをどう活用するかを話し合う「マーケティング分科会」「オペレーション分科会」を設置した。