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全日本空輸(ANA)グループが全ての職場の全ての業務でデジタル技術の活用に乗り出した。1000億円を投じてIT基盤も刷新した。将来を見据え、航空産業の枠組みを打ち破る先行投資も進める。国内最大手の航空グループにおけるデジタル戦略を追った。

全日本空輸(ANA)は客室乗務員訓練生の養成にVR(仮想現実)コンテンツを活用する取り組みを始めた。2022年度までに客室乗務員を8000人から1万人へと一挙に2000人増員する計画が進むなか、訓練生に十分な訓練の機会を与えるだけでなく、訓練の質も高める一挙両得を狙う。

戸棚からものが飛び出す、火災が起こる

 VRの訓練用コンテンツは現時点で3種類用意している。例えば航空機内のギャレー(厨房)の安全確認では、ボーイング777型機や同787型機の実物大のギャレーがVRゴーグルによって訓練生の視界に再現される。

 訓練生はバーチャル空間のギャレーで、制限時間内に扉などのロックを全て確認する訓練を実施する。ロック確認は出発前や着陸前などに必ず実施するものだ。

VRによるギャレー(厨房)の確認訓練コンテンツ。出発前や着陸前の限られた時間内に、ギャレー内の扉などにロックをかけていく
VRによるギャレー(厨房)の確認訓練コンテンツ。出発前や着陸前の限られた時間内に、ギャレー内の扉などにロックをかけていく
(画像提供:全日本空輸)
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 制限時間内に全てのロック確認を終えれば、ギャレー内に「Success(成功)」の文字が浮かぶ。終えられないと、ロックできていなかった扉が一斉に開き、中に入っているものが飛び出してくる。

制限時間内にロックを完了すると「Success(成功)」の文字が表示される
制限時間内にロックを完了すると「Success(成功)」の文字が表示される
(画像提供:全日本空輸)
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制限時間内にロックが終わらないと、戸棚から中のものが飛び出してくる
制限時間内にロックが終わらないと、戸棚から中のものが飛び出してくる
(画像提供:全日本空輸)
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 バーチャルだからと大げさにしているわけではなく、実機でこうした確認漏れがあると、離着陸時の衝撃で本当に中身が飛び出す恐れがあるからだ。場合によっては中身が客室まで飛んでいって乗客のけがなどにつながる危険もある。離着陸の準備で忙しいときでも漏れのないロック確認が欠かせないのだ。

 そのほか、客室内での火災と急減圧が発生した場合を想定した緊急対応を学ぶ訓練用コンテンツも用意している。一般に客室乗務員は訓練センター内にある実物大の機体のモックアップで訓練し、火災発生を想定した消火訓練もカリキュラムに組み込まれている。

 とはいえ、飛行中の機内で火災や急減圧が起こるとどのような状況になるかはモックアップでは再現できない。「よりリアルな訓練にするために、VRでしか体験できない訓練用コンテンツとして火災と急減圧を用意した」。訓練へのVRコンテンツ導入に携わった井出裕加吏客室センター客室訓練部訓練業務課アシスタントマネージャーは狙いをこう話す。