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 前回は、事業価値評価に基づく「IPオーバーレイド・リアル・ポートフォリオ」戦略(前編)として、事業ポートフォリオ・マネジメントに基づく経営戦略を展開について述べた。そこでは、リアル・ポートフォリオのシミュレーション例として、海外事業展開を挙げた。海外事業進出先の候補として「米国、中国、ドイツ、インド、カナダ、韓国」の6カ国を検討対象国とし、6カ国単独に進出する場合、および複数の国へ進出する場合を考える。一般に金融資産などに関するリスクの定量的把握の指標として、リターンに係る標準偏差などが使われる。ポートフォリオ収益の標準偏差などを算出すれば、金融資産などと同様に海外事業ポートフォリオに係るリスクを定量的に把握することができる。

 各選択対象国単独、および海外事業ポートフォリオとして選択対象国の全ての組み合せについて、海外事業ポートフォリオ収益の平均増減率/標準偏差をプロットした結果は図1の通りだ。

図1●海外事業ポートフォリオ収益の平均増減率/標準偏差
図1●海外事業ポートフォリオ収益の平均増減率/標準偏差
“World Economic Outlook Database” (October 2017 Edition), International Monetary Fund (IMF)の名目GDP(米国ドル・ベース。一部IMF推計値を含む)のデータを使用。各国の対象市場の比較として、各国名目 GDPの評価算定期間における前年比増減率の平均、および、標準偏差を算出する。リアル・ポートフォリオにおいては、事業リソースなどの再配分に関し、生産能力や知的財産に係るライセンス契約期間などの条件を頻繁に変更することは現実的ではなく、金融資産を対象とするようなリバランスを行うことは困難と考えられるため、本シミュレーション例においては組み合された各国名目GDPの増減に伴い、各年のウエイトが変化する「動的ウエイト加重平均(“Dynamic Weighted Average”)」による平均増減率を使用する。名目GDP増減率の標準偏差については、固定ウエイトによる標準偏差を、「固定ウエイトによる平均増減率」と「変動ウエイトによる平均増減率」の比例関係に基づき、簡便的に変動ウエイトによる標準偏差に修正する。ポートフォリオの標準偏差については、各構成要素(名目GDP増減率)間の相関係数および分散・共分散により算出する。
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 図1において、標準偏差が同じであれば高い平均増減率のものが、平均増減率が同じであれば小さい標準偏差のものが、リスク/リターンの観点から、より優れたパフォーマンスを示すといえる。金融ポートフォリオにおいて、同じ標準偏差で最も高いリターン、または同じリターンで最も低い標準偏差の個別資産の組合せとしての効率的(有効的)フロンティアは、各個別資産への投資配分を自由に変更可能との前提により、一般に連続した曲線で示されるが、リアル・ポートフォリオにおいては同じ前提とすることが現実的ではないため、本シミュレーション例においてはプロットされた点(各組合せ)で示される。

 例えば、リスク許容度に関して標準偏差を4%以下とする場合、対象各国を個別に見ると米国(単独)のみが該当し、その平均増減率は3%に限定される。前編で例示した海外事業ポートフォリオA(米国・中国・インドの組み合わせ。以下、「P(A)」)は、標準偏差が3%以下であるが、平均増減率は6%を超えており、リスク/リターンの観点から米国(単独)より優れていると判断できる。

 また、海外事業ポートフォリオB(インド・韓国の組み合わせ。以下、「P(B)」)は、P(A)と平均増減率は同レベルだが、リスクがより大きな値となっている。他方、海外事業ポートフォリオC(米国・インド・韓国・カナダの組み合わせ。以下、「P(C)」)は、P(A)と標準偏差は同水準だが、平均増減率は3%程度と低い。従って、リスク許容度に関して標準偏差を4%以下とする条件では、リスク/リターンの優位性の観点からP(A)を選択することが合理的と考えられる。