前回は、事業価値評価に基づく「IPオーバーレイド・リアル・ポートフォリオ」戦略(前編)として、事業ポートフォリオ・マネジメントに基づく経営戦略を展開について述べた。そこでは、リアル・ポートフォリオのシミュレーション例として、海外事業展開を挙げた。海外事業進出先の候補として「米国、中国、ドイツ、インド、カナダ、韓国」の6カ国を検討対象国とし、6カ国単独に進出する場合、および複数の国へ進出する場合を考える。一般に金融資産などに関するリスクの定量的把握の指標として、リターンに係る標準偏差などが使われる。ポートフォリオ収益の標準偏差などを算出すれば、金融資産などと同様に海外事業ポートフォリオに係るリスクを定量的に把握することができる。
各選択対象国単独、および海外事業ポートフォリオとして選択対象国の全ての組み合せについて、海外事業ポートフォリオ収益の平均増減率/標準偏差をプロットした結果は図1の通りだ。
図1において、標準偏差が同じであれば高い平均増減率のものが、平均増減率が同じであれば小さい標準偏差のものが、リスク/リターンの観点から、より優れたパフォーマンスを示すといえる。金融ポートフォリオにおいて、同じ標準偏差で最も高いリターン、または同じリターンで最も低い標準偏差の個別資産の組合せとしての効率的(有効的)フロンティアは、各個別資産への投資配分を自由に変更可能との前提により、一般に連続した曲線で示されるが、リアル・ポートフォリオにおいては同じ前提とすることが現実的ではないため、本シミュレーション例においてはプロットされた点(各組合せ)で示される。
例えば、リスク許容度に関して標準偏差を4%以下とする場合、対象各国を個別に見ると米国(単独)のみが該当し、その平均増減率は3%に限定される。前編で例示した海外事業ポートフォリオA(米国・中国・インドの組み合わせ。以下、「P(A)」)は、標準偏差が3%以下であるが、平均増減率は6%を超えており、リスク/リターンの観点から米国(単独)より優れていると判断できる。
また、海外事業ポートフォリオB(インド・韓国の組み合わせ。以下、「P(B)」)は、P(A)と平均増減率は同レベルだが、リスクがより大きな値となっている。他方、海外事業ポートフォリオC(米国・インド・韓国・カナダの組み合わせ。以下、「P(C)」)は、P(A)と標準偏差は同水準だが、平均増減率は3%程度と低い。従って、リスク許容度に関して標準偏差を4%以下とする条件では、リスク/リターンの優位性の観点からP(A)を選択することが合理的と考えられる。