非金融企業が有利なフィンテック
[1]既存の金融機関が取り組めなかったフィンテック
フィンテックは2008年の金融危機以降に生み出された新しい金融サービスを総称して使われることが多いが、こうしたサービスを類型化したものが表1だ。既存の金融機関は、顧客保護や健全性維持の観点からさまざまな要請を受けており、このコストが極めて高い。フィンテックで展開されるサービスのほとんどは、既にニーズはあったものの、コストが障害となって金融機関が取り組めなかったものがほとんどだ。
また、これらフィンテックのサービスは完全に金融機関の既存のサービスとバッティングする。金融機関がこの分野を積極的に取り組むことは、一方で、既存ビジネスのリストラクチャリングを意味するので、どうしてもおよび腰になる。
[2]特許と縁遠かった金融サービス
新しい技術への取り組みが遅れたのには、知財戦略への不慣れもあると思われる。従来、金融は特許出願件数が最も少ない業種の1つだった。これは主に以下の2つの理由による。
①金融サービスにかかる新規性、進歩性の乏しさ
規制業務として明確に要件、基準が決められており、改良技術に新規性や進歩性が乏しい。
②新規発明の余力の乏しさ
システム開発に必要な投資額、改善要請が膨大で、新規発明に掛けられる余力が限られていた。
①金融サービスに係る新規性、進歩性の乏しさ
金融関連の特許で主なものは表2の通り。特許の内容が本格的な技術革新につながるものに限られており、しかもかなり前に出願された結果、現在では失効しているものがほとんどだ。
②新規発明の余力の乏しさ
2014年のデータによれば金融機関のシステム投資の実に70%は維持・運用に回っており、現在でも大きくは変わっていないであろう(図5)。金融機関がフィンテックに取り組む余力はほとんどなかったと言ってよい。
[3]ビジネス関連発明としてのフィンテック特許は比較的取得が容易
フィンテックは、特許としてみれば、金融とICT(情報処理技術)を結び付けたビジネス関連発明となる。
1998 年のステートストリートバンク事件、1999 年の米アマゾン(Amazon)のワンクリック特許事件など、1990年代後半米国でビジネス関連特許の有効性を肯定する判決が出されて、日本でもビジネス関連発明に対する認識が高まり,2000年にはビジネス関連発明の出願が急増した。
当初は査定されて特許になるものが少なく、査定率は10%以下にまで低下したが、その後、審査基準の浸透とともに査定率は大幅に改善、現在では出願した70%近くが特許として認められている。また、出願件数も2011年をボトムに増加に転じた(図4)。
フィンテックを具体化するビジネス方法が、情報通信技術を利用して実現されたものはビジネス関連発明として、特許の保護対象になる。金融に関しては過去に特許が出願されておらず、「ブルーオーシャン」と言ってよい状況にある。フィンテックに係る特許は比較的簡単にとることができる状況にあると言える。
金融機関や金融機関へのシステム納入を行う取引先にとっては、斬新なフィンテック技術の開発は難しいだろう。また海外企業も日本国内で海外技術をそのまま展開することは難しいと思われる。ユニークな技術を開発した新興企業が市場シェアを一気に獲得する余地が残されている分野と言える。