全4664文字
PR

広がるユースケース

 Facebookが検討している仮想通貨「Libra(リブラ)」については、社会に非常に大きなインパクトを与えることが予想されることから、各国で慎重な議論が行われている。では、仮想通貨以外の分野でも、ブロックチェーンの導入により社会に大きな変化をもたらすだろうか。

 実は、既にブロックチェーン技術は仮想通貨以外の幅広い分野で応用が検討されており、多くのユースケースが生まれている(図3)。ブロックチェーン技術を適用すれば、利便性を高めたり効率化を図ったりすること以上にビジネスモデル自体が変わり、新ビジネスが創出される可能性がある。さらには、社会構造に変革をもたらす領域さえあるといわれる。

図3●ブロックチェーンのユースケース
[画像のクリックで拡大表示]
図3●ブロックチェーンのユースケース
(野村総合研究所「平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査) 報告書」に基づいて正林国際特許商標事務所が作成)

 ブロックチェーン関連特許の出願に付与された国際特許分類(IPC)を分析すると、年々、付与される分類の種類が増えている(図4)。これは、当初は仮想通貨などの金融系分野しか想定されていなかったブロックチェーン技術の活用想定範囲が、徐々に広くなってきたことで特許出願の領域が広がりを見せていることの証しだろう。

図4●ブロックチェーン関連発明に付与された分類別出願件数の推移
[画像のクリックで拡大表示]
図4●ブロックチェーン関連発明に付与された分類別出願件数の推移
(Questelの特許データベースに基づいて正林国際特許商標事務所が作成)

 トレーサビリティーの確保とスマートコントラクトに親和性がある特徴から、ブロックチェーンは商流管理においても注目されている。例えば、WalmartはIBMと組み、中国から輸入する豚肉などの食品のトレーサビリティーと透明性の担保のため、ブロックチェーン技術を活用した生産・流通管理システムについて実証実験を行っている。Walmartはドローンによる商品の配送物の受け渡しの受取人の認証に関する発明についても、先行的に特許を出願している。

低コストでサービス化の可能性も

 シェアリングエコノミーもブロックチェーンの応用が期待される分野である。米ウーバー(Uber Technologies)のライドシェアや米エアビーアンドビー(Airbnb)の宿泊施設シェアは中央で管理されたビジネスモデルだが、ブロックチェーンを導入すると中央管理者がいなくても低コストでサービスを実現できる可能性がある。その他、自転車や駐車場、バッテリー、データストレージ、宿泊施設、倉庫など、シェアリングする対象は各種あり、特許情報を調べるとさまざまな応用例を確認することができる。

 現時点では電気事業法の制約の問題があるが、ブロックチェーンのP2Pの特徴を生かして、需要家間で電力を取引する分散電力システムに関する特許出願もされており、実証実験も行われているところだ。

 IoT(Internet of Things)もブロックチェーンと親和性が高いといわれている分野である。分散配置されたセンサーが取得・送受信するデータを、ブロックチェーンを使って取引し、所定条件で動作実行するようにしておけば、自律的にデータの利活用を進めることができる。

 漫画などのデジタルコンテンツでは違法コピーの被害が甚大で深刻だ。そこで、デジタルコンテンツの著作権保護対策として、ブロックチェーン技術の活用が検討されている。作品の著作権の記録をブロックチェーン上に管理し、不正利用を追跡することができる。さらに、スマートコントラクトの機能を活用すれば、制作者側と消費者側との直接のやり取りを可能にしたり、複数の著作者の著作権料などをあらかじめ取り決めた内容で自動的に配分したりすることも可能になる。

 他にも、有機野菜やワインなどのトレーサビリティーの向上や、美術品やダイヤモンドといった宝飾品の真贋証明など幅広い分野でブロックチェーンの適用可能性が検討されている。

 これまでコスト的に見合わないとされてきたビジネスであっても、ブロックチェーンを適用すれば中央管理の負荷軽減によってコストを低減でき、ビジネスとして成立し得る。つまり、ブロックチェーン技術は、新たなビジネスを創出する可能性があるのだ。

 一方で、ハイプ・サイクルの幻滅期に入りつつあるという冒頭の公表結果は、期待の大きなブロックチェーンの実用化への取り組みにおいて、課題も強く認識され始めているということを示唆する。例えば、「ブロックチェーンは、取引内容を後から修正するのが難しい」、「ブロックに格納する容量に制約がある」、「大量の取引に向かないスケーラビリティーの問題を抱えている」、「プライバシーの保護と分散管理の両立が難しい」、「ブロックチェーン内での合意形成に時間がかかり、即時性が求められる取引には向いていない」といった課題がブロックチェーンにはあることが分かってきた。加えて、本当に低コストのシステムを実現できるのかといった課題もあるだろう。

 人工知能(AI)技術の応用においても、強力に威力を発揮できる分野と、簡単には飛躍的な効果が表れにくい分野がある。同様のことがブロックチェーン技術にもいえそうだ。今後は、個別事例の課題への解決策が功を奏して実用化が早く進む分野と、すぐには実用化に踏み切れない分野がより明確になっていくと思われる。ブロックチェーン技術の見極めと改良が進んでいく中で、遅きに失するという事態にならないように、日本企業にはいざとなれば知財に大胆に投資する姿勢も必要である。