本人確認のための顔認証。無人レジや入国審査における顔認証ゲート、銀行のATMなどさまざまな場面で活用が始まっている。顔認証の実用化は中国と米国が先行しており、精度に慎重な日本では実用化が遅れている。
だが、実は顔認証の本格的な実用化は2010年ごろから日本で始まった。その時期からの技術の蓄積で、日本の顔認証技術は世界でもトップレベルにある。
先進分野であるが故に、国内外の多くのベンチャー企業がこの分野に進出している。ただ、この顔認証の分野は大手企業が強いと思われる。先進分野において、顔認証のような装置産業型の事業は大企業が復権し、ソフトウエア型の事業はベンチャー企業が活躍するという2極化が進んでいる。
先進分野における大企業の復権
認証は生体認証の中でも被認証者の負担が軽く、大量の人間の認証を行う必要がある局面での導入が世界的に進んでいる。一方で、撮影環境によって精度が大きく変化する。そのため、瞬時に標準的な画像を認識して判断できる画像解析技術の高度化が求められる分野でもある。
先進分野であるが故に、国内外の多くのベンチャー企業がこの分野に進出している。そして、いくつかの分野では大手企業に先んじた技術開発を実現している多くのベンチャー企業がある。それでも、日本では特にこの分野は大手企業が強いであろうと思われる。理由は以下の通りだ。
[1]過去からの技術の蓄積が大きい。
[2]高速・高精度での画像解析を行うためには多額の資金が必要となる。
[3]施設での実証実験を重ねる必要があり、そのための資金と信用を要する。
自動運転など先進分野のいくつかでは昨今、ベンチャー企業が弱体化し、旧来の大手メーカーが取って代わるような動きが見えてきている。顔認証のような装置産業型の先進分野は同様の流れになる可能性が高いと思われる。
パチンコ・パチスロホールから始まった顔認証の実用化
日本で顔認証システムの実用化が本格的に始まったのはパチンコ・パチスロ(パチンコ型スロットマシン)ホールである。2010年ごろから、中古遊技機の点検確認において「なりすまし」防止のために顔認証システムを導入した。
その後、防犯目的でホールでの運用が始まり、不正利用の利用者特定などに使われている。こうした顔認証システムの技術開発を担ったのが、日本の大手電機・通信メーカーだった。
欧米や中国に先んじて、顔認証に関する特許の国内出願件数は2006年ごろに既にピークを迎えた。その後、一度減少に向かったものの、最近の利用機会の拡大を踏まえて再び増加傾向にある(図1)。技術的には日本企業が先行している分野も多い。
大手が主導する顔認証の技術開発
顔認証の技術は、主に映像技術+センサー技術+高速演算の技術が必要で、巨額の資本を必要とする。この20年間の特許出願件数ランキング(一定以上の特許を選出)で見ても、大手が上位に並んでいる(図2)。資本力と継続的な出願実績からみて、この顔ぶれが短期間に変化することは考えにくいと思われる。