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 2019年11月4日、米国のドナルド・トランプ大統領が地球温暖化防止の世界的取り組みであるパリ協定(第21回気候変動枠組条約締約国会議;COP21)からの離脱を正式に国際連合に通告し、温暖化防止に対する取り組みの足並みが乱れている。台風強大化の被害を目の当たりにすると、二酸化炭素(CO2)削減は待ったなしであることを直視させられる。

 CO2削減を目指し、トヨタ自動車(以下、トヨタ)が「第46回 東京モーターショー2019」(10月24日〜11月4日)に、2代目となる本格的な量産型の燃料電池車(FCV)「ミライ」を投入し、国内での水素社会実現のため「月1000台規模」の販売を目指すと発表した。

 2018年には日本の自動車メーカー大手3社であるトヨタと日産自動車(以下、日産)、ホンダを含む計11社が共同で国内水素ステーション会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社」(ジェイハイム:JHyM)を設立、インフラ整備の取り組みを進めている。

 このインフラ整備は水素を燃料とする全てに朗報だ。特に乗用車に比べて遅れていた貨物車や重機、船舶などが、ゼロエミッション達成の救世主として、水素内燃機関が再び注目する可能性がある。

なぜ今、水素なのか

 なぜ、今、再び水素燃料に注目が集まると言えるのか。いくつか理由を挙げられる。

[1]次世代自動車である電動車(xEV)はハイブリッド車(HEV)がほとんどだが、これではCO2削減は進まない

 日本が世界に胸を張るxEVの販売台数比率は30%強。この数字は他の先進国(5%以下)を圧倒している(2017年実績)。

 ところが、その中身を見ると、ほとんどがHEVであり、走行中に化石燃料を使わないクルマ、すなわち電気自動車(EV)とFCVの年間販売台数はわずか6万台弱、比率も全体の2%にとどまっている(図1)。

図1●次世代自動車(xEV)の販売台数シェア
図1●次世代自動車(xEV)の販売台数シェア
国土交通省と経済産業省の資料を基にiLaboが作成。
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 もちろん従来車と比べてHEVのCO2排出量は少ないが、それでもガソリンエンジン車(以下、ガソリン車)の半分以上のCO2を走行時に排出している(図2)。地球温暖化が切実な問題となり、CO2排出量の抜本的な対策が必要な今、HEVにだけ頼っていては不十分であることは明白だ。

図2●ガソリン車とHEVのCO<sub>2</sub>排出量(2015年)
図2●ガソリン車とHEVのCO2排出量(2015年)
Well-to-Tankはエネルギー生産時、Tank-to-Wheelは走行時。経済産業省の資料を基にiLaboが作成。
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[2]日本の電源ミックスを考えるとEVのCO2排出量はHEVと大差ない

 では、全部EVに変えてしまえばよいかといえば、そうではない。もちろんEVは走行時のCO2排出量はないが、図3が示すように、現状では充電する電力を生成する際にCO2を排出する比率は高い。

図3●各国のEVのCO<sub>2</sub>排出量
図3●各国のEVのCO2排出量
Well-to-Tankはエネルギー生産時、Tank-to-Wheelは走行時。経済産業省の資料を基にiLaboが作成。
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[3]日本のCO2削減の足を引っ張る発電・熱供給部門

 我が国のCO2排出量を見ると、東日本大震災による一時的な増加以降は減少を続けているものの、それ以前と比較すると、残念ながら大きく減少しているとはいえない。これは、CO2削減を進める他の部門に比較して、発電・熱供給部門の削減が進んでいないことによる(図4)。

図4●部門別CO<sub>2</sub>排出量の推移
図4●部門別CO2排出量の推移
国立環境研究所の温室効果ガスインベントリオフィス資料を基にiLaboが作成。
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 その背景には、2011年の東日本大震災以降、原子力の穴を埋めるために化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)の割合が増加。現在では80%を超えていることにある。一方、期待された新エネルギーはまだ8%にとどまっており、その成長は緩やかだ(図5)。

図5●日本の電源ミックス
図5●日本の電源ミックス
(出所:資源エネルギー庁)
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 現在の電源ミックスを前提とすると、日本では、CO2排出量の削減のためには充電しなくてもよいクルマを増やす必要がある。そこで再び注目される可能性があるのが、水素を使う燃料電池車(FCV)というわけだ