2020年10月に入り、金融庁による無形資産担保の制度創設についての報道があった。従来、日本の金融機関における担保は有形固定資産が原則である。そのため、スタートアップ企業など有形固定資産を持たない企業に対する融資が厳しく、金融機関が融資を行うことが難しかった。しかし今回、特に中小企業を念頭に、企業が持つ無形資産を含めた包括的な担保制度を創設するとしている。
無形資産の代表的な例である知的財産は今でも担保設定が可能ではあるが、実際にはほとんど担保にはなっていない。また、知的財産の評価を融資判断に生かす取り組みとして、2015年に始まった中小企業知財金融促進事業の中で国が「知財ビジネス評価書」作成に関する支援を行っているが、制度として定着したとは言えない状況にある。
担保の意義
担保法制が整備されることと、実際の担保として広く使われるようになることとは違う。特に、担保の主要な設定権者である金融機関においては、担保が適格な担保として認められることが重要である。
担保の意義は、債務者の信用状況が悪化したときにも金融機関が担保価値を裏付けにして与信を継続できることにある。また、万が一、債務者が破綻した場合でも、担保資産からの回収により金融機関の損失を最小限にとどめる意義がある。このため、担保の取り扱いについては監督官庁から要件が決められている。
金融機関における担保の取り扱い
[1]金融機関の債権の分類
金融機関は債権に将来の貸し倒れを想定して引当金を計上している。この引当金の計上レベルは債権の回収可能性に応じて決められている。
債権の回収可能性評価はこう行われる。まず、金融機関は債務者の信用力を査定し、4つの債務者区分に分類する。そして、その債務者区分を基に、債権の保全状況を加味して、債権ごとに分類を行う。「Ⅰ分類(非分類)」であれば問題はないが、業績の悪化などで債務者区分が劣化すると、担保のつかない債権は「Ⅱ分類」以下に分類されることになり、特に「Ⅲ分類」以下になると個別引当金を計上することになる。そのため、負担が格段に重くなる。そのままでは債務者は新規の与信を受けることが事実上困難になる(表1)。
債権の分類をⅡ分類にとどめるためには、債務者の信用力を改善するか、担保を提供する必要がある。信用力の改善は実際にはそう簡単ではなく、担保の提供が即効性のある解決策となる。
[2]金融機関の担保区分
担保には、優良担保と一般担保の区別があり、それ以外は設定してもⅢ分類以下への格下げを回避する担保として認められない(表2)。すなわち、金融機関にとっては、一般担保にならない担保は設定してもあまり意味がなく、知財が担保として設定されてこなかったのも、一般担保にならないという理由が大きい。
金融庁金融検査マニュアルを基に正林国際特許商標事務所が作成。
[3]一般担保に認められるための要件
一般担保に認められるための条件は、①法的安定性、②評価方法の客観性・合理性、③担保の継続的管理、④再評価の4つと考えられる(表3)。
このうち、知財が一般担保として認められるためのハードルは、②の評価方法の客観性・合理性にある。知財の評価は、取引事例が開示されることがほとんどないことから、専門家を除いて取引価格が客観的・合理的であるかどうかの判断ができないのである。