「2050年カーボンニュートラル宣言」を2020年10月に菅義偉首相が表明した。国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とし、脱炭素社会の実現を目指す。世界的な異常気象の原因と見なされる温暖化ガスの排出を2050年までに全体としてゼロにする世界主要国の動きに歩調を合わせた。その実現に不可欠なのは、発電部門の二酸化炭素(CO2)削減だ。
発電部門のCO2削減のためには、再生可能エネルギー発電を大幅に増やす必要がある。その鍵を握るのは太陽光とバイオマス*だといわれている。ところが、特許を調査・分析すると、太陽光は太陽電池パネルという点で、バイオマスは原料調達という点で海外頼みが続いている。結論を先に言えば、日本が「グリーン成長」をなし遂げるには、カーボンニュートラルの推進と併せて、価格競争力を重視した太陽光発電関連技術の開発と、国内で栽培可能な資源を前提としたバイオマス発電関連技術の開発を進める必要がある。
CO2排出量の4割を占める発電部門
日本のCO2排出量を分野別に見ると、最も排出量が多いのはエネルギー転換部門で、2019年の速報によればCO2排出量は4億3300万tと、全体の39%を占めている(図1)。エネルギー転換部門は主に発電部門であり、日本がカーボンニュートラルを実現するためには、まずは発電部門におけるCO2排出量を減少させる必要がある。
日本の場合、2011年の東日本大震災と、直後に発生した原子力発電所の事故によって原子力発電がストップし、燃料が化石燃料にシフトしたという特殊事情がある。その後、地熱および新エネルギーの発電量は増加を続けているが、それでも全体に占めるシェアは9%と低い(図2)。
CO2を排出しない発電燃料の割合が高い国であれば、エネルギーを電気に転換することでカーボンニュートラルを実現できる。これに対し、日本ではエネルギーを電気に転換しても、現在発電の半分以上に化石燃料を使っているため、CO2を削減できないという難しさがある。
実際、発電以外の部門はおおむね減少を続けているにもかかわらず、発電部門だけがCO2排出量を伸ばしている(図3)。その意味では、電力消費そのものを抑制することも大切だろう。
日本政府は電力エネルギー効率の改善で電力需要そのものを減少させながら、再生可能エネルギーによる発電の拡充を図る考えだ。
日本の再生可能エネルギー発電増加の鍵
日本の再生可能エネルギーによる発電量は毎年着実に増加している(図4)。その中で圧倒的に多いのは太陽光で、全体の70%を占めている。次いで、ここ数年で急成長を遂げているのがバイオマスだ。17%のシェアとなっている。
太陽光発電は、固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り価格の引き下げによって一時期の設置・建設ラッシュは一段落した。だが、設備投資の相対的なメリットや対象となる設置場所の多さから、引き続き再生可能エネルギー発電の過半を占めることになると思われる。
一方、バイオマス発電は、原料の植物栽培がCO2吸収にカウントされるため、カーボンニュートラルの観点から効率性が高い。今後さらにこの割合は増加していくと予想される。
太陽光発電:中国製への依存度を高める
太陽光発電関連の登録特許は、登録出願が2011年以降、毎年1000件を超える大きなセクターだ。件数は2009年以降に急増し、政府が再生可能エネルギー発電を推進するためのFIT制度を始めた2012年以降も伸び続けた。その後、2014年以降に緩やかな成長へと移行した(図5)。
太陽光を電気に変換する液晶パネルの基本的な技術開発が峠を越え、中国勢が主導する低価格競争が激化。これにより、各社の開発意欲が減退したことがその原因と考えられる。
太陽光発電関連の登録特許出願件数が多いのは三菱電機とパナソニックで、これに東芝が続く(表1)。残念ながら各社とも採算を確保できず、パナソニックが2021年2月に太陽電池の生産から撤退を決めるなど苦しんでいる。米国やドイツなどの先進国も同様で、今や太陽電池パネルの生産シェアのトップグループはほとんど中国企業が占めている。
太陽光発電をさらに増やすためには発電設備の建築を進める必要があるが、そのためには太陽電池パネルを中国企業から買うことになる。日本企業が持つ多くの特許が生かされず、中国製太陽電池パネルへの依存度が高まるという皮肉な状況となっている。