全2301文字
PR

 日本政府が宣言した「2050年カーボンニュートラル」。CO2を削減する方法に注目が集まるが、どうしても一定量残る非電力部門からのCO2排出に対しては、炭素除去を同量に増やさないと排出量を実質ゼロにはできない。

 炭素除去は主に産業部門で実現を目指すことになるだろうが、コスト面での制約が大きい点は厄介だ。仮に設備投資において公的な補助が受けられたとしても、最終製品の価格が現実的なものでなければサステナブル(持続可能)とはいえないだろう。事業として採算を確保しながらCO2を積極的に除去する技術がどうしても必要となる。

日本政府が示した2050年カーボンニュートラルの実現のイメージ
日本政府が示した2050年カーボンニュートラルの実現のイメージ
非電力部門のCO2排出量について示した。(出所:内閣官房ホームページ)
[画像のクリックで拡大表示]

 炭素除去には、[1]バイオマス燃料の使用、[2]CO2の吸収、[3]CO2の原料化、が考えられる。このうち、[1]と[2]については技術的には確立しているが、採算面や規模に関して課題が残る。最終的には[3]のCO2の原料化が炭素除去という観点からは重要ではないか。もちろん、簡単ではない。

エネルギーレベルが低く難しいCO2の原料化

 CO2の原料化が難しいのは、CO2が安定物質であり、エネルギーレベルが低いからだ。プラスチックなどの原料となる有機化合物を製造するために、CO2から酸素を分離させ、炭素あるいは一酸化炭素などの中間物質を分離する技術は確立している。

 ただし、CO2から酸素を分離する際に使う水素の生産に多くのエネルギーを要することが問題である。加えて、CO2や水素ガスの保管、水素製造のためのエネルギー保管にもエネルギーを要する。

 段階的なCO2削減のために、当初はクリーンエネルギーで生産する水素を使ってCO2から中間物質を生産することが行われるだろう。ただ、2050年カーボンニュートラルの実現には、CO2から直接中間物質を生産することが可能となっていなければならない。

 そこでキーテクノロジーとして期待されるのが、人工光合成である。人工光合成では、人工的な光合成によってCO2から有機化合物を生産するという点で炭素除去に直接貢献する。加えて、日本の全産業のCO2排出量のうち6%を占める化学産業においてCO2排出量を減らせるという意義も大きい。

CO<sub>2</sub>の原料化に関する段階的実現のイメージ
CO2の原料化に関する段階的実現のイメージ
(各種資料に基づき正林国際特許商標事務所が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

人工光合成の仕組み

 光合成は、植物が光エネルギーを使って水と空気中のCO2から酸素とデンプンなどの糖類を生産する営みとしてよく知られる。植物は、光エネルギーを使って葉緑体の中にある膜に並んだタンパク質複合体が水を酸化し、そこで得られたエネルギーでCO2を分解して糖類を生産している。この方法は水素を使わないが、太陽光エネルギー変換効率が0.2~0.3%程度と低く、事業化には程遠い効率である。

 一方、人工光合成では、タンパク質複合体の代わりに光触媒を使う。光触媒を使って水を水素と酸素に分解、その後、水素だけを分離膜を使って取り出し(ソーラー水素)、CO2と合成触媒を使って反応させて有機化合物を生産する仕組みだ。

 この人工光合成では太陽光エネルギー変換効率を飛躍的に高められるが、一方で多くの技術課題が残っている。特に、光触媒と分離膜、合成触媒の3つが実用化に向けたキーポイントとなる。