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 世界には銀行口座を持てず、金融機関からローンを借りられない人が17億もいると言われている。口座開設の問題はスマートフォンなどの普及によって改善しつつある。ところが、口座を持たない人の多くは貧困層であり、仮に口座を持てるようになっても、依然として金融機関から借り入れを行うのは難しい。

 こうした貧困層のうち、生活を改善したいと考える労働者の多くはドライバー業に就く。ただ、自分のクルマを所有していない場合が多く、高価な車両使用料を払い続けなければならない。せっかく勤勉に働いて収入を得ても、車両使用料やガソリンなどの経費を差し引いた実質的な収入は低く、労働者の生活水準は向上しないケースが多いと言われる。

 こうした労働者がローンを組めるようになったらどうなるだろうか。

 まず、車両の取得が労働者の生活改善につながり、自助努力による貧困からの脱却の可能性を提供できる。車両使用料とは違ってローンの支払いは有限であり、例えばフィリピンのトライシクル(3輪タクシー)のドライバーは3年程度でローンを完済できる。ローン完済後、ドライバーは車両を3輪車から4輪車へと大型化することも可能だ。すると、収入も増え、家計が好循環を始める。ローンが組めるようになるだけで、将来の生活にアップサイド(伸びしろ)が見えてくるのだ。

 気候変動対策にも好影響を与える。ローンを組む労働者のほとんどは新車や環境規制をクリアした中古車を購入する。このため、旧式の自動車が順次置き換えられ、環境負荷が軽減する。すると、大気汚染や温暖化ガスの減少を期待できる。

 こうした通常の与信審査ではローンを組めない人々に対し、金融を提供するベンチャー企業がある。フィンテック系スタートアップ企業であるGlobal Mobility Service(グローバルモビリティサービス=GMS、東京・港)だ。需要が多いのは新興国。日本には珍しい大型グローバルスタートアップ企業と言える。

キーテクノロジーはMCCSとMSPFの2つ

GMSの事業概要
GMSの事業概要
(出所:GMS)
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 GMSは自らファイナンスを提供する金融機関ではない。金融機関が自動車ローンを貸し出す際に、担保となる自動車の管理を提供する会社である。

 キーとなるのは、GMSが自社開発して特許も取得している2つの技術である。[1]個々の車両に取り付ける「遠隔起動制御デバイス(MCCS)」、[2]車両状況の高度管理システムである「モビリティーサービスプラットフォーム(MSPF)」、だ。

 MCCSは個々の担保車両に取り付けられるデバイスで、通信技術を使った車両の位置把握と遠隔起動制御が可能である。MSPFは車両状況の管理システムであり、運行状況や車体の現況をリアルタイムで管理できる。加えて、金融機関や決済システム、他のフィンテック(FinTech)サービスとの連携が可能で、延滞していた債務者が返済金を払い込めば即座に運行が可能になるシステムとなっている。

 債務者の支払いが滞った場合には安全を考慮した上で車両の起動を不可能にすることで、債務者に支払いを促す。そして、支払い後にはすぐに起動制御を解除できるため、通常通り利用することができる。加えて、運行情報を取得できることから、ドライバーの勤怠管理もできる。そのため、堅実な勤務態度による個人信用の高さを客観的に証明するデータを取得するセンサーとしての役割も担っているというわけだ。

 金融機関からすれば貸し付けの回収は担保となる車両の価値に依存するため、個人の信用を補強することができる。

 新車に限らず中古車も対象としているため、低い車両価格でローンを組むことも可能だ。その結果、毎回の返済額も標準的な生活費の範囲内でとどまっており、支払うモチベーションの上昇につながった。この結果、2019年4月〜2021年3月までの2年間の日本国内のデータを見ると、期待ロス率は1%未満にとどまっており、良質な貸し出し債権になっている。

2030年までに1億人のファイナンス創出を目指す

 GMSの主要市場は海外、特に新興国である。フィリピンとカンボジア、インドネシアの3カ国は既に拠点を確立しており、事業が急速に拡大している。今後の展開可能性は、他のアジア諸国やアフリカ、南米などの国・地域であり、現地の金融機関の状況などを見ながら事業展開を図っていく計画である。

 現在では、既に1万人以上がGMSのフィンテックサービスを利用しており、1億人のファイナンスを創出することを当面の目標にしている。