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 毎年、世界中の有力企業が最先端の技術を披露する世界最大のテクノロジー見本市「CES(Consumer Electronics Show)」。2022年の最大のキーワードは「メタバース」となった。

 メタバースは、コンピューターやコンピューターネットワークの中に構築された3次元の仮想空間のこと。その核となる技術がVR(Virtual Reality;仮想現実) /AR(Augmented Reality;拡張現実)だ。2021年、米Facebook(フェイスブック)がMeta Platforms(メタ・プラットフォームズ)に社名を変更したことをきっかけに3次元仮想空間の可能性が改めて注目され、日本でもパナソニックをはじめ大手が本格参入を発表している。

 大手各社がこぞって注力するのは、その市場の成長性にある。公表されているいくつかの市場予想を平均して間を補完すると、この市場は2028年には4000億米ドル(46兆円、1米ドル=115円換算)に達すると見込まれている。年率にして実に平均40%を超える成長率である上に、これだけの大きな金額となる市場なら誰しも興味を持つはずである。

図1●VR/ARの市場規模予測
図1●VR/ARの市場規模予測
(各種公表資料に基づき正林国際特許商標事務所が作成)
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 VRも年率20%近い成長率が見込まれているが、今後の成長のドライバーとなるのは何といってもARである。VR/ARと併せて表現されることも多いが、VRとARは基本的に技術的な難易度が大きく異なる。特にARの難易度は極めて高く、その壁が市場拡大を阻んできたといえる。

VRの現状

 VRはあらかじめ記録されたデータを3次元に展開するもので、使用する場所もあらかじめ決められた場所である。従って、移動範囲も狭く、また提供される画像情報の内容も予測可能だ。このため、ユーザーフレンドリーなハードウエアやソフトウエアの開発、位置の把握を行うトラッキングシステムの改善が技術革新の中心となる。

 現在の用途は、小売り・EC(電子商取引)や、教育・トレーニング、旅行体験、広告などの企業や教育機関などの商業目的が半分以上。次いでゲームや映像鑑賞などの消費者使用や医療、航空・防衛などがその目的となっている。用途はほぼ確定しており、利便性の向上とともに市場が拡大するステージにある。

 2020年からの新型コロナウイルス感染拡大はVR市場にとっては追い風となった。テレワークによる業務の拡大は、商業目的の活用拡大につながった他、特に中国とインドにおいて自宅で映像を楽しむための需要が急増した。これらの需要はアクセラレーターとなり、新型コロナウイルス感染の収束があったとしても、市場拡大の勢いは止まらないだろう。

ARの現状

 ARは現実の画像に仮想データなどを反映させるもので、使用する場所の範囲が格段に広い。想定される画像情報も広範囲にわたり、こうした仮想空間に必要な没入感を得るためのスペックの要請が極めて高い。また、広範囲の移動を前提とすると、VRよりも機器の小型・軽量化が重要となるほか、位置情報のトラッキングも3次元で必要となるなど困難を極める。

 特にディスプレー方式については、小型・軽量化の鍵となるのがウェイブガイド(導光板)方式の開発である。現在、視野角(FOV)や価格において改善が期待されており、この実現により市場の拡大に拍車がかかることが期待される。

図2●VR/ARのディスプレー方式の変遷
図2●VR/ARのディスプレー方式の変遷
(各種公表資料に基づき正林国際特許商標事務所が作成)
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 ARでは突出した用途はないが、足元では、製造業における作業支援用途での需要が拡大している。この分野では、米Microsoft(マイクロソフト)が2016年から提供するMR(Mixed Reality;複合現実)ゴーグル「HoloLens」が先行しており、工場や小売りのストックヤードなどでの需要が拡大中だ。最近では医療用途の需要も増えており、ゲームや地図アプリケーションソフトウエアなどでの利用も拡大している。

 ARでは、技術革新が進めば用途は大きく拡大するとみられており、スマートフォンやタブレット端末などのディスプレーは基本的にARに変換すると考えられている。現在問題となっている歩きスマホなども、AR搭載の眼鏡をかけることで安全性の改善が期待されている。

 市場拡大に向けて最も大きな課題は価格の引き下げである。特にAR市場が爆発的に拡大するには、大幅な価格の低下が必要と見られている。マイクロソフトが提供するHoloLens 2は1台40万円以上と、現在のスマートフォンと比較してもかなり割高である。これらの価格が半額程度に引き下げられれば、市場拡大のトリガーとなるだろう。