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 日本政府は、「統合イノベーション戦略 2020」において、特許出願公開や特許公表に関して、制度面も含めた検討を推進することを決めた。その後、「統合イノベーション戦略 2021」および「経済財政運営と改革の基本方針2021」において、「特許の公開制度について、各国の特許制度の在り方も念頭に置いた上で、イノベーションの促進と両立させつつ、安全保障の観点から非公開化を行うための所要の措置を講ずるべく検討を進める」と決定した(表1)。

 そして、2022年2月4日に開催された経済安全保障推進会議において、有識者会議が行った経済安全保障法制に関する提言の中で、特許の非公開化に関する方向性が示された。

表1●経済安全保障法制に関する提言の概要
表1●経済安全保障法制に関する提言の概要
(内閣官房経済安全保障推進会議(第2回)資料に基づき正林国際特許商標事務所が作成)
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現行の特許制度の問題点

 日本の現行の特許制度では、出願された発明は出願から1.5年たつと一律に公開される。このため、安全保障上問題となる発明が出願されていても、内容にかかわらず公開されてしまうことになる。

 諸外国の多くは、特許制度の例外措置としてこうした問題となる可能性のある発明の特許出願について出願を非公開とする。それとともに、流出防止措置を講じて、当該発明が外部からの脅威に利用されることを未然に防ぐ制度を持っている。20カ国・地域(G20)諸国の中でこうした制度を有していないのは、日本とメキシコ、アルゼンチンのみであるという。

 この問題に対処するため、特許出願のうち安全保障上、極めて懸念のある発明であることから公にすべきではないものについて、そうした状況が解消するまでの間、出願公開の手続きを留保する。同時に、安全保障上懸念のある発明の流出を防ぐための措置を講じる制度を整備する必要があるという問題意識から、この制度はスタートした。

一方で特許を非公開化すると他国で特許が成立してしまう懸念もある

 一方で、特許の内容が公開されないと、他国にとっては発明されていない状況になることから、他国で同一内容の特許が成立してしまう可能性が出てくる。安全保障上の観点だけではなく、経済活動やイノベーションにどのような影響を及ぼすかも考慮して、非公開とする対象を十分に絞り込む必要がある。

 対象となる発明が事前に分かる「予見可能性」も重要である。一方で、要件や基準を細目化し過ぎると、政府の問題意識を外部にさらすことになり、それを探ろうとする悪意の出願が行われる恐れもある。従って、予見可能性の確保については、安全保障とのバランスを取ることも念頭に置く必要があるとされている。