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 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、サプリメント(以下、サプリ)の市場が拡大している。その中で、脳機能の改善をうたったサプリの市場は、日本で530億円(2020年)とサプリ市場全体の6%程度を占めるとみられる。また、全世界での市場は8740億円(2020年)であり、2027年までに年率5%程度の堅調な伸びが見込まれている。

 期待される効能は、従来は認知機能や記憶力の改善であった。だが、新型コロナの感染拡大とともに日常生活にストレスを感じる人間が増加し、鬱の症状改善に期待するサプリに注目が集まっている。

脳機能サプリの市場
脳機能サプリの市場
(キリン・ホールディングスの「ヘルスサイエンスの全体戦略と今後の可能性」を基に正林国際特許商標事務所が作成)
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 サプリは法律上、医薬品とは厳格に区分されており、予防や治療の効果はうたえない。そのため、販売する各社は多額の広告宣伝費をかけて認知度を高め、顧客の購買につなげる戦略を採っている。信頼を獲得するために自社で臨床試験を行う企業もあるが、あまりに多くの種類が販売されているために比較が難しく、その中からどの種類を選択するかという判断の助けにはならない。

 今回、鬱の症状改善が期待される成分について特許の分析を行った。一般に、サプリの原料は医薬品とは異なり動植物由来のものである。そのため、成分そのものが特許の対象になることは少ない。低価格を志向するため、特許にかかる費用はコスト上昇要因として敬遠される傾向にある。これに対し、製法などの特許を出願することは臨床試験と同じく自社製品の高品質を前提とするもので、効能の評価につながるものと考えられる。

 現在、製品を販売するホームページやEC(電子商取引)サイトなどで鬱の症状改善が期待できるとする成分のうちメジャーなものは、セロトニン、ヒペリシン、プラズマローゲン、オメガ-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ヒペルフォリン、ガゼリ菌の6種類である。これらの用語を含む特許を検索した結果、登録数が圧倒的に多いのがセロトニンで、次いでヒペリシン、プラズマローゲンであった。

鬱の症状改善に期待する成分別特許出願件数(累積)
鬱の症状改善に期待する成分別特許出願件数(累積)
(特許調査支援サービス「PatentSQUARE」のデータを基に正林国際特許商標事務所が作成)
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セロトニン
 脳内の神経伝達物質の1つで、ドパミン・ノルアドレナリンを制御し、精神を安定させる働きをする。必須アミノ酸トリプトファンから生合成される脳内の神経伝達物質の1つ。

ヒペリシン
 オトギリソウ に含まれる暗赤色のアントラキノン系天然色素。ハイパフォリンと共にハーブのセイヨウオトギリ(セントジョンズワート)に含まれる主な生理活性成分の1つ。

プラズマローゲン
 リン脂質の一種で、体内では抗酸化作用や多価不飽和脂肪酸〔アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)など〕の貯蔵庫としての役割を果たしていると考えられている。心臓や骨格筋など酸素をたくさん消費する部位に多く存在し、特に脳に多い。