宇宙への物資と人の輸送は長らくコストダウンに苦しんできた。21世紀もほぼ1/5を過ぎた今、宇宙輸送系のコストダウンに対して、2つの解が実用化しつつある。「宇宙輸送システムの再利用」と「小型化」だ。
かつて再利用によるコストダウンを目指したスペースシャトルは、技術的な失敗に終わった。しかし、新世代の再利用ロケットはロケットエンジン逆噴射による着陸で、より無理なく効率的な再利用を実現している。
また、衛星の軽量化と高性能化が同時に進行した結果、より小さな衛星でも十分以上の実用性を備えるようになりつつある。小さな衛星を打ち上げるための小さなロケットを開発すれば、その運用コストは大型ロケットと比べて小さくなる。小さな衛星を小さなロケットで打ち上げれば、より低コストで既存衛星サービスに対抗できるシステムを組めるようになる。このため世界各国で、小型から超小型の衛星打ち上げシステムの開発が進んでいる。
これら2つの技術革新を支えるのは、ムーアの法則に支えられたデジタル・エレクトロニクスの急速な進歩と、長年に渡って続けられてきた宇宙技術の開発が組み合わさった結果だ。逆噴射による着陸・再利用における誘導制御は、主に惑星探査機の他天体着陸技術として研究開発されてきたものが、デジタル・エレクトロニクスの急速な進歩により、ロケット打ち上げに適用できるものとなった。
小型ロケットを開発するベンチャー企業を支える小型衛星打ち上げ需要も同様だ。長年に渡って蓄積してきた通信・放送・地球観測などの衛星技術が、デジタル・エレクトロニクするの進歩でより小型の衛星に搭載可能になり、かつての大型衛星と同等のことをより低コストの小型衛星で実現できるようになったことで、小型衛星打ち上げロケットの需要が盛り上がっている。
使い捨てでは、製造コストがそのまま運行コストに上乗せされる
初期のロケットはそのすべてが大陸間弾道ミサイル(ICBM)にルーツを持つ。軍事は国家の生存戦略と直結するので、その開発と運用のコストは国家予算で持ち、副次的要因となる。大型の弾頭を正確に着弾できるICBMは上段(2段目や3段目のこと)を装備し、容易に衛星打ち上げロケットに転用できる。それどころか能力次第では有人宇宙船の打ち上げにも使える。
旧ソ連の「R-7」ICBMは、人類最初の人工衛星「スプートニク1号」(1957年10月4日)の打ち上げに使われた。ユーリ・ガガーリン宇宙飛行士の登場する世界初の有人宇宙船「ボストーク1号」の打ち上げにも使用された。「R-7」はその後、改良を重ねて現在も「ソユーズ」打ち上げロケットとして衛星・探査機から国際宇宙ステーション(ISS)に赴く「ソユーズ」有人宇宙船の打ち上げにまで幅広く利用されている。
米国でも最初期の「マーキュリー」有人宇宙船にはICBM改良の「アトラス」ロケットが、次の世代の「ジェミニ」有人宇宙船には同じくICBM改良の「タイタン」ロケットが使用された。
その後、アポロ計画に使われた「サターンI」「サターンV」から、ICBMとは別系統の「宇宙機の打ち上げ専用に設計されたロケット」が開発されるようになる。中でも1970年代から80年代にかけて欧州が開発した「アリアン1〜4」シリーズは、商業打ち上げ市場の成立を受けて、製造から打ち上げオペレーションに至るまでのすべてでコストを意識した最初のロケットとなった。
だが、ここまでのロケットはすべて「使い捨て」だった。巨大なブースターから第1段、上段、フェアリングに至るまでのすべてを1回の打ち上げで使い捨てる。地球を周回する衛星を打ち上げるためには、最終的に約10km/秒もの速度を必要とする。そこまで加速するためには、ロケット自身を極限まで軽量化し、なおかつ使い終わった部分を打ち上げの途中で段階的に分離してロケットを軽量化していくしかない。これが多段式ロケットの設計コンセプトだ。その結果、製造コストがそのまま1回の運行コストに上乗せされるのだ。