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 21世紀に起業した宇宙ベンチャーのことを「ニュー・スペース」と総称する。そのトップを走っているのが2004年に起業家のイーロン・マスクが興したスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ社(Space Exploration Technologies Corp.)だ。しかし、この長ったらしい名前を使う者はまずいない。同社はスペースX(SpaceX)という略称を使用しており、CEOのイーロン・マスクを含め、誰もが「スペースX」と呼ぶ。

スペースX最初のロケットである「ファルコン1」(画像:SpaceX)
スペースX最初のロケットである「ファルコン1」(画像:SpaceX)
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 同社の個性の大部分はCEOであるイーロン・マスクの個性と重なる。1971年に南アフリカで生まれた彼は、カナダを経てアメリカに移住し、1995年に最初の会社であるオンラインコンテンツ出版のZip2社を起業した。同社がネット検索企業のAltaVistaに売れたところから、彼の起業人生が始まる。この時に得た資金で1999年にネット決済起業のX.com社を立ち上げる。この会社がネット決済大手のPayPalへと急成長したことで、彼は一気に多額の資金を手に入れた。その資金を使って設立したのがスペースX社だ。

枝葉末節に囚われず、原理原則から思考する

 イーロン・マスクは、起業家として活動し始める前から、人類の未来を決めるのは「インターネット」「クリーンエネルギー」「宇宙」だと考えていた。ネットへの興味はZip2とPayPalとなり、クリーンエネルギーへの興味は、電気自動車製造のテスラ・モータースとなった。そして、宇宙への興味の表れがスペースXというわけである。

 しかし、マスクの宇宙への興味は「宇宙でビジネスをする」という一般の宇宙ベンチャーとはかなり異なる。彼の思考は、「徹底して原理原則に則って思考し、その結果どんな特異な結論が出ても受け入れる」というものだからだ。

 彼は考える。小惑星の地球衝突のような、地球に住む我々の文明を崩壊させるような巨大な災害が起きる可能性は決してゼロではない。そのような規模の災害を乗り越え、文明を維持発展させるためにはどうすれば良いか。

 彼の答えは宇宙の別の場所にもう1つの文明のバックアップを作るというものだ。では、そのバックアップはどこに作るべきなのか。彼は「火星だ」と考える。火星の気候は決して人間が住めないというものではない。1日の長さは地球より37分長いが、その程度なら人間は十分適応できる。何よりも水と二酸化炭素の存在が確認されている。これらを使えば酸素も水素も、メタンも製造できる。これらはロケットの推進剤として使える。

 火星に文明のバックアップを作るためには、多数の人間が火星に赴き、植民し、火星の資源を使って自律的に生活できるようにする必要がある。そのために最初に必要なのは何か——火星との往復飛行を実現できる宇宙船であり、そのような宇宙船を打ち上げるためのロケットだ。

 これらから、イーロン・マスクにとってのスペースXは単に「宇宙でビジネスをする会社」ではないと分かる。火星に文明のバックアップを作るための手段を開発し、運用する会社なのだ。商業打ち上げを初めとしたスペースXのビジネスは、「文明のバックアップを作る」という大目的のために、会社を維持拡大する手段なのだ。

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