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 NTTドコモの「ahamo(アハモ)」に代表される低料金サービスが携帯電話大手から相次いで投入されたことで、低価格を武器としてきたMVNO(仮想移動体通信事業者)が一転して窮地に立たされている。総務省は携帯電話大手の新サービス開始までに、MVNOの競争力を維持できる施策のめどをつけられるのだろうか。

現状ではMVNOがahamoなどに対抗できない

 NTTドコモが月額2980円で20GBのデータ通信が利用できる「ahamo」を提供して以降、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは相次いで低価格帯を主体とした新料金プランを打ち出し、低価格で利用できるサービスの選択肢が大幅に増えた。消費者にとってはありがたい一方で、他の事業者にとって脅威を生み出してしまったようだ。

 とりわけ影響を強く受けているのがMVNOである。もともとオンラインでの販売を主体にすることで大幅に安い料金を実現していたのがMVNOだった。だが、携帯電話大手がそうした手法を取り入れて低価格化を推し進めたことで、MVNOからしてみれば市場破壊を起こされかねない事態となっている。

 現状のMVNOの料金プランを見ると、ahamoなどと同じ高速データ通信の20GBプランで、月額4000円から5000円前後といったところのようだ。だがahamoはそれより1000円以上安い料金水準を実現しており、MVNOのサービスにはない1回5分の通話定額や、国際ローミングなども提供している。しかも混雑時も通信速度が落ちにくいなど品質面では圧倒的な優位性がある。

 こうしたahamoなどのサービスに対抗して、MVNOが料金を大幅に引き下げるのは厳しい状況だ。例えばMVNOがネットワークを借りる際に支払う料金は、データ通信に関して電気通信事業法で定められた算定式で産出される接続料が1年に1回見直されている。総務省が2020年10月に打ち出した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」では3年間で5割引き下げるとしている。

 だが2021年1月19日に総務省が実施した有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」の第40回会合で、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会 MVNO委員会の島上純委員長は、ahamoに代表される月額2980円で20GBの「廉価プラン」と、MVNOの料金プランからギガバイト当たりの単価を試算したところ、廉価プランの単価はMVNOの2分の1から3分の1の水準だったとし、現在の接続料では競争が困難だと主張している。

 この計算をそのまま接続料の評価に当てはめられるわけではないが、これだけ料金差があると、仮にアクションプラン通り接続料を3年間で5割削減したとしても、その3年間のうちにMVNOの競争力が大きく失われてしまうことになりかねない。

総務省「接続料の算定等に関する研究会」の第40回会合におけるテレコムサービス協会 MVNO委員会の提出資料から引用。携帯電話大手の廉価プランとMVNOの料金プランを比較すると、ギガバイト当たりの単価は廉価プランがMVNOプランの3分の1水準になるとしている
総務省「接続料の算定等に関する研究会」の第40回会合におけるテレコムサービス協会 MVNO委員会の提出資料から引用。携帯電話大手の廉価プランとMVNOの料金プランを比較すると、ギガバイト当たりの単価は廉価プランがMVNOプランの3分の1水準になるとしている
(出所:総務省)
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