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菅政権による大手への圧力が生んだ矛盾

 いくつかのMVNOは、現時点の状況でも大手の廉価プランに対抗すべく、新料金プランを打ち出す動きを見せている。例えば日本通信は2020年12月10日に、ahamo対抗プランとして「合理的20GBプラン」を打ち出している。月額1980円で16GBの高速データ通信と70分の無料通話が利用できる他、ahamoのサービス開始に合わせて高速データ通信量を20GBに増量するとしている。

 また「mineo(マイネオ)」ブランドでモバイル通信サービスを提供するオプテージも、2021年1月27日に新料金プラン「マイピタ」を発表。携帯電話各社の回線を使ったサービスの料金統一を図るとともに、大容量を中心として料金を大幅に引き下げる。5GBのプランで月額1380円、20GBでは従来プランの半額以下の水準となる月額1980円という料金で提供する。

オプテージが2021年1月27日に発表した新料金プラン「マイピタ」。1G〜20GBの4つのプランを設け、20GBプランは月額1980円と、ahamoなどより1000円安い料金を実現している
オプテージが2021年1月27日に発表した新料金プラン「マイピタ」。1G〜20GBの4つのプランを設け、20GBプランは月額1980円と、ahamoなどより1000円安い料金を実現している
(筆者撮影)
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 オプテージの説明によると、新料金プランによる料金引き下げ後も黒字化を見込んでいるとしているが、低価格化の実現に当たっては自社の固定ブロードバンドサービスの資産を有効活用したコスト効率化に加え、今後音声通話の卸料金の低廉化も見越しているとのこと。音声卸料金が想定以上に下がらなければ、赤字となるリスクを背負ったプランといえる。

 またオプテージ代表取締役社長の荒木誠氏は、新プランをもってしてもなお、MVNOと携帯電話大手の間にはネットワークやサービスの品質に差があり、とりわけ混雑時の通信速度ではかなわないと主張。テレコムサービス協会 MVNO委員会の要望書への賛同を示し、競争力確保のためにもデータ通信接続料や音声卸料金のさらなる低廉化を求めるとしている。

 利用者の料金が携帯電話大手の接続料と卸料金の動向に大きく左右されるMVNOのビジネス構造上、その部分で大幅な低廉化が進まなければ競争力向上は難しい。しかもMVNOはここ数年の競争激化で薄利のビジネスを余儀なくされているだけに、大幅な低廉化のめどが立たない限り、携帯電話大手に対する有効な対抗策を打てるMVNOは相当限定されるのではないだろうか。

 しかも2021年1月29日に楽天モバイルが発表した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、月当たりのデータ通信量が1GB以下であれば月額0円という料金を実現。スタックテストをするまでもなく競争できる水準にない料金プランの登場で、MVNOの小容量プランは一斉に競争力を失い致命的な打撃を受けかねない。

 そもそもこのような事態を招いた原因は、総理大臣の菅義偉氏による携帯電話大手への料金引き下げ圧力ではないか。とりわけアクションプラン発表後の2020年11月20日に、武田総務大臣が記者会見でサブブランドによる料金引き下げを「羊頭狗肉(ようとうくにく)」として強く批判、携帯電話大手のメインブランドでの料金引き下げを求めたこと影響は大きい。

 菅政権の姿勢がNTTドコモのahamoをはじめとした各社の廉価プラン提供へとつながっているわけだが、このように携帯電話大手がMVNO以上に安い料金プランを提供すれば、立場が弱いMVNOが太刀打ちできないのは自明だったはずだ。政権による圧力という拙速な手段で料金引き下げを実現しようとした結果、市場競争を促す役割を果たすはずだったMVNOに危機をもたらし、アクションプランに矛盾が生じてしまった。総務省や武田総務大臣、ひいては菅政権には、拙速な手段によらずに矛盾を解消する施策が求められるだろう。

佐野 正弘(さの まさひろ)
フリーライター
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手掛けた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手掛ける。