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 2020年9月16日、前官房長官で自民党新総裁の菅義偉氏が内閣総理大臣に選出された。菅氏が力を入れている取り組みの1つに携帯電話の料金引き下げが挙げられる。菅氏が総理大臣に就任したことで行政から携帯大手3社に対する値下げ圧力は一層強くなるとみられる。だが、これまでの行政の取り組みを振り返ると、そうした取り組みが真に消費者のニーズに応えているとは言い難いと思える。

料金引き下げに強硬姿勢を取り続ける菅氏

 前内閣総理大臣の安倍晋三氏が2020年8月28日に辞任を表明したことを受け、次の総理大臣を決めるための動きがここ最近大きな注目を集めていた。9月14日に実施された自民党の両院議員総会で、官房長官を務めていた菅氏が新総裁に選出され、9月16日には内閣総理大臣に選出されることとなった。

 菅氏は一般には「令和」の年号を発表した「令和おじさん」として知られているが、携帯電話業界でも非常によく知られた存在である。なぜなら菅氏はかねてより、携帯電話の料金引き下げを強く求め、業界への積極的な関与を進めてきたからである。

 その菅氏の姿勢が明確に表れたのは、2018年に「携帯電話料金は4割程度引き下げられる余地がある」と発言したこと。これを受ける形で総務省は2018年より有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」を立ち上げた。そこでの議論が2019年10月の電気通信事業法改正に反映された結果、従来の業界の商習慣を大きく覆す規制が次々実施されることとなったのである。

 具体的には、通信契約にひも付く形での端末代値引きを禁止し、通信料金と端末代を明確に分離した「分離プラン」の導入を義務化した。通信契約に基づかない値引きも2万円までに規制。さらに、長期契約を結ぶ代わりに通信料金を引き下げる、いわゆる「2年縛り」の違約金上限を従来の10分の1の水準にまで引き下げるなど、大ナタというべき規制が実施されたのである。

 改めてなぜこのような規制が導入されたのかといえば、毎月の通信料金を原資としてスマートフォンの大幅値引きをすることで顧客を獲得し、2年縛りによって長期契約を結ばせることという従来の商習慣が、通信料金の高止まりを招く要因とされたためだ。端末の大幅値引きを規制することで通信料金の値引き競争を引き起こし、長期契約による縛りを減らすことで消費者がより安価なサービスへと移りやすくすることで、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社の寡占状態に終止符を打ちたいというのが法改正の狙いだったわけだ。

 先の議論の中では有識者からも疑問の声が上がるほど、根拠に乏しい内容を総務省が強引に押し通す姿勢を見せたこともあった。政権幹部である菅氏の強い姿勢と後押しが、法改正のプロセスに大きく影響していたと感じさせた。

2019年6月18日の総務省「モバイル市場の競争環境に関する研究会」第15回会合より。菅氏の料金引き下げに端を発したこの会合では、総務省側の強引な姿勢が目立つ場面も見られた(筆者撮影)
2019年6月18日の総務省「モバイル市場の競争環境に関する研究会」第15回会合より。菅氏の料金引き下げに端を発したこの会合では、総務省側の強引な姿勢が目立つ場面も見られた(筆者撮影)
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