感動のあまり席を立てない
AMショーの開催日はあっという間にやって来た。ゲーム機の正式な名称も「O.R.B.S」と決まった。球体を意味する「orb」から発想し、他の商標とかぶらないようにアルファベットの間に点を付けた。
思えばつらくても楽しい日々だった。ドーム型ゲーム機の魅力に取り付かれて集まった開発メンバーたちにとって、これほど熱中した時間はなかった。「毎日が文化祭の前の部活動のようだった」(東山)。後はAMショーの来場者に楽しんでもらうだけだ。「ユーザーに受け入れられる自信はあった」(小林)ものの、ゲーム機を購入する店側の反応はどうなるか分からない。「ある意味、破れかぶれの心境だった」(小林)。
蓋を開けてみれば、大盛況だった。O.R.B.Sを体験しようと並ぶ人の列は、絶えることがなかった。再び列の後ろに並び、何度も楽しむ人もいた。ゲームが終わっても、感動のためかしばらく席を立たない人もいた。
来場者から取ったアンケートの結果は、全出展ゲーム機の中で第3位。商用化直前のゲーム機ばかりがずらりと並ぶ中で、商用化の計画のない試作ゲーム機としては異例とも言える快挙だった
ランキング表のコピーを眺めながら、東山は自宅で1人涙した。本業である家庭用ゲームソフトの開発に戻るタイムリミットが迫っていた。ドーム型ゲーム機にほれ込み、部署の垣根を越えてまで参加した彼にとって、その感動はより深かった。