2019年4月、えりすぐりのスポーツテックを提供する100社以上のスタートアップが東京に集結した。電通とシリコンバレーのベンチャーキャピタルのスクラムベンチャーズが共催する、スポーツテック関連のスタートアップ支援プログラム「SPORTS TECH TOKYO」のキックオフイベントに参加するためだ。連載第2回は、今、スポーツ界で注目を集める「脳」に関するイノベーションを紹介する。目的は「パフォーマンスの改善」「トレーニングの効率化」「脳震盪(のうしんとう)の判定」「疲労度の測定」「メンタルの可視化」など幅広い。
「2017年は空席が目立った学会発表の聴衆が、2018年には米国のプロチームの関係者などで満員の状況だった」
2017年1月に「スポーツ脳科学(Sports Brain Science:SBS)プロジェクト」を立ち上げ、脳とスポーツの関連性の研究に携わるNTTの柏野牧夫氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 NTTフェロー スポーツ脳科学プロジェクト統括)は、米国の脳科学に関する学会に参加した際、この分野に対する関心の急速な高まりに驚いたという
これまでスポーツ界に限らず、「脳」への作用を売り文句にする製品やサービスは数知れないが、その中には科学的な裏付けが不十分なものもあった。しかし、近年の脳科学の進展によって、科学的なエビデンスに基づくものが増えており、「勝利」が最重要課題であるプロスポーツ界からの注目が、特に高まっている。
「SPORTS TECH TOKYO」にも、脳に関する製品やサービスを手掛けるスタートアップが複数参加した。共通しているのは、大学や軍関係の研究成果を基にしており、さらに関連する研究論文や、実践した結果を積極的にWebページで公開していることだ。
例えば、脳を微弱な電流で刺激しながらトレーニングをするためのヘッドホン型デバイス「Halo Sport」を開発した米国のHalo Neuroscienceは、そういった企業の1つである。同デバイスは、米国のメジャー・リーグ・ベースボール(MLB)やナショナル・フットボール・リーグ(NFL)、ナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)などに所属するチームが、既に活用している。
Halo Neuroscienceは2016年に最初のモデルである「Halo Sport」を発売し、2019年にはその改良版である「Halo Sport 2」を投入した(図1)。頭頂部から側頭部にかけて突起状になった部分があるが、これが電極で脳に刺激を与える。電極部の突起はスポンジのように柔らかく、専用の液体を染み込ませて装着する。