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「代金を肩代わりしろと言われて、困っているんですよ」

 酒席で、某大手製造業の役員から悩みを打ち明けられた。A社としよう。A社では多くの外国人労働者に働いてもらっている。その顧客B社から工場を見せてほしいと依頼があったようだ。どうも、外国人労働者の労働環境を調査したいらしい。なお、B社は半導体製造装置メーカーだ。

 A社は外国人労働者を優遇しており、人間関係は良好だし、福利厚生もしっかりしていたことから、B社の訪問を歓迎した。「どうぞ、どうぞ、何でも見てください」と受け入れた。B社は、A社で働く外国人労働者との個別面談を希望した。A社は恥じるところがないので、それも許可した。何といってもB社はA社にとって大事な顧客だ。

(出所:PIXTA)
(出所:PIXTA)

 すると、後日、B社は意外な「結果」を通知してきた。A社は、技能実習生をアジアから迎え入れている。技能実習生の送り元として有名なのは、ベトナムやカンボジアなどだ。そういった国々から若手人材を預かり、3年ほど(最大5年)働いてもらうのが技能実習生制度だ。日本人作業者よりも真面目だと評判で、日本人作業者の不足を補うことができる。

 問題になったのは、技能実習生が出身国のブローカーや日本語教育機関に支払う手数料である。彼らが日本で働こうと思えば、約100万円を支払わねばならない。その100万円は不当に「支払わされているもの」であり、強制労働に当たるというのだ。よって、A社は技能実習生たちのために、その100万円を肩代わりしてあげなければならない、という。

技能実習生は強制労働を課せられているのか

 個人的に私はベトナムとカンボジアの技能実習生たちや送り出し期間を取材したことがある。企業が技能実習生の選定を行う際に、面接官としてお手伝いをしたこともある。

 彼らにとって100万円は大金で、借金をしてくる。日本から仕送りして、さらに預貯金をして、帰国したら商店や工場を営む。A社からすると、日本行きは彼らの自由意志によって決断されたことだ。だから、技能実習生たちの100万円を肩代わりすることは受け入れられない。

 さらに問題は、技能実習生たちは日本円で約100万円を支払ったというが、領収書などはもらえなかったと異口同音に語った点だ。A社からすれば、領収書などの証拠がないものを肩代わりするとなると、株主に説明できない。

 しかし、それでもB社はA社に肩代わりしろと言ってくる。どうも聞いてみれば、B社のさらに顧客であるC社からの強いプレッシャーだという。C社は大手半導体メーカーだ。C社は移民労働者が負債を背負って働くのは強制労働に当たると考えている。

 上からの圧力があったものだから、B社は調査を開始し、A社への通達に至ったというのだ。

 ちなみにC社は米アップル(Apple)ではないものの、同社も同様の考えを持っている。2008年以来、同社はその肩代わりをサプライヤーに依頼しており、実に約33億5000万円が払い戻されている(2018年時点)。

 大元となる考えは、米国で生まれた「SA8000」というCSR(企業の社会的責任)規定に基づいている。これは米国のNGO(非政府組織)などが中心となって規定した国際認証だ。その中で、強制労働の禁止が定められており、囚人労働や奴隷労働を含む強制労働の禁止がうたわれている。加えて、預託金や身元証明の提出を求めることも禁止とされている。技能実習生制度で労働者が支払う100万円が、この預託金に当たるというのだ。