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 中国の武漢を発生源とする、新型コロナウイルスによる肺炎の感染が全世界に拡大している。中国政府が団体旅行を禁止したため、各国の観光業に大影響を及ぼしている。春節と重なる、まさにバッドタイミングだった。観光客が減り、それが宿泊業や飲食業に打撃を与えている。銀座などを歩くと、もちろん外国人旅行者には出会うものの、思っていたほどの数はいない。消費総額の約4割を占める中国人旅行者が大幅に減少するため、関係企業は戦々恐々としている。

 もちろん、売上高が減ったとしても、従業員が肺炎を罹患(りかん)するリスクの方がよっぽど恐ろしいといえる。当初は人から人への感染は断定されなかったが、今では症状がない人からの感染もあり得るという。日本は、水際での対策を徹底しようとしている。しかし、自覚がない人も含めて、どれぐらいの感染者が日本に入国したかも分からない。突然、日本国内で発症するかもしれない。

 そして、これから影響が拡大すると思われるのは、各企業のサプライチェーンだ。仮に感染者が日本に入国していなくても、中国で工場が止まるかもしれない。あるいは、日本国内でも工場作業者の罹患が確認されれば、その工場は稼働を止めるだろう。どんな国の小さな工場であっても、そこで生産している製品は世界中に輸出される基幹部品になっているかもしれない。

(出所:PIXTA)
(出所:PIXTA)

 2011年の東日本大震災でも、福島の部材が供給されなかったために、遠く離れた米国や欧州連合(EU)にある工場の生産が止まった。少なからぬ企業が、間接的に福島から部材が供給されていたことを知らなかったほどだ。福島の企業から直接調達していたら把握していただろうが、孫請け、ひ孫請けに福島の企業が存在していた場合、震災が起きて初めてサプライチェーンを把握した企業も多かった。

 今や世界は複雑に絡み合っている。ある国の問題は、瞬く間に世界中に影響を及ぼす。米アップル(Apple)のスマートフォン「iPhone」の新機種が発売されるたびに、組み立てを担う台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の組み立て費用を類推する記事が出てくる。どのモデルも、組み立て費用はたった数ドルにすぎない。日本や韓国、米国、EUなどから半導体や電子電気部品が中国に集まり、それらが組み立てられた上で世界中に伝播する。中国はこの世界的なエコシステムの中で出口を担っており、良くも悪くも、中国は世界の工場として直接/間接的に、無数の企業や消費者に付き添っている。

ホンダやトヨタに影響

 新型コロナウイルスの感染の速さに、世界保健機関(WHO)は「国際緊急事態」を宣言した。日本は官民共にインバウンド消費をあおってきたので、新型コロナウイルスによる訪日外国人旅行者減少のリスクは、観光業にとってメリットの裏返しといえなくもない。一方、製造業のグローバル化は、世界中の企業が効率化とコスト低減を求めた結果だった。

 2002~2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のケースと比べる向きもある。ただし、当時の訪日外国人観光客は500万人程度だった。中東呼吸器症候群(MERS)が初めて確認された2012年が800万人超。それが2019年には3000万人を超えた。人々の行き来は圧倒的に増えている。さらに、グローバル化も進んでいる。

 新型コロナウイルスは、企業のサプライチェーンにどのような影響を及ぼしているのか。2020年1月末の時点で目立ったものだけでも、前出の鴻海が中国にある工場を止めたほか、ホンダも武漢の工場を同年2月中旬まで稼働停止すると発表した。上海に工場がある三菱自動車や米テスラ(Tesla)も稼働を止める。同じく中国に工場を構えるトヨタ自動車やNEC、オムロン、京セラなども影響を免れなかった。

 忘れてはならないのは、このように報じられている企業の下には、無数のサプライヤーが存在するという事実だ。部品メーカーなども生産を中止せざるを得ず、その落ち込みは相当な額になるだろう。

 皮肉なことに、大量生産される医療用品の多くが中国で生産されている。だから、新型コロナウイルスに医療用品工場の作業者が感染して生産がストップすれば、悪影響は拡大する。

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