中国・武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が広がっている。その圧倒的な感染力の前に、私たちは慄くしかない。
厚生労働省は、一律に自粛を求めない、という前提ではあったものの、多くの人たちが集まるイベントの開催再考を促した。私の周りでも、参加するはずだったカンファレンスや講演会などのイベントが中止あるいは延期になったりしている。自らのイベントを起点に感染が拡大したら悪夢でしかないので、多くの主催者はそのように決断するのだろう。
これは日本だけの動きではない。スペイン・バルセロナで開催される予定だった「MWC Barcelona 2020」も中止になった。モバイル通信業界の著名な見本市であり、多数の商談や技術的な意見交換などが行われるはずだった。中止になったことの影響は、後から出てくるだろう。

人が移動できないのだから、新型コロナウイルスの影響はイベントだけにとどまらない。企業活動にも悪影響を及ぼしている。中国に工場を持つトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、マツダ、ドイツのフォルクスワーゲン(Wolkswagen)などが稼働停止、あるいは一部車種だけの生産を余儀なくされている。任天堂は「Nintendo Switch」の減産を明らかにしたし、米アップル(Apple)も台湾の鴻海精密工業などに製造委託している「iPhone」などについて減産を発表した。
私の顧客企業に話を聞いたところ、日本からの出張者を受け入れなくなった海外企業も出てきているという。海外から日本への出張も気が進まないだろうから、人的交流面でも支障が生じているようだ。
現地の状況を把握できない
私が属している企業は、サプライチェーン・調達領域のコンサルティングをなりわいとしている。そこで、1万3000社ほどの会員企業を対象として、新型コロナウイルスの影響に関する緊急アンケート調査を実施した。その結果、約88%の企業が「影響があった」と回答した。さらに、多くの企業は、状況が日々変化しているために影響を正確に把握できていないようだ。各社の状況については、次のような声が寄せられた。
- 中国内の自社工場、協力会社工場共に生産再開の見通しが立っていない
- 部品サプライヤーは政府から再開の許可を得られていないところが多く、部品の納入もまばら
- 人の移動に制限がかかり、一定期間の隔離も実施されているので、工場に人が戻らず、ラインを組めない
- 国内で生産している製品でも、部品は中国生産というものが多数あり、それらの生産もストップしている
- 中国の代替先として他国の原料に買いが集中し、調達不安が生じている
- ワーカー不足で生産量が上がらず、生産しても物流の混乱(ドライバー不足との情報)でスムーズに運べない
- ラインの安全衛生に必要な防じんマスクや、品質管理に必要なクリーンルーム用マスクを調達できない(日本、中国工場のいずれも)
- コンテナが港に届かない
- 移動規制で郵便が止まり、輸入書類が送付できない
- 武漢のベンダーに発注しているが、納期どころか現地の状況が闇の中で、現地担当者と連絡が取れない