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 9年前の2011年、東日本大震災が日本を襲った際、私たちの会社ではすぐさま調達部門にアンケートを実施した。どのような不測の事態が起きたのか、あるいは事前策・事後策で有効だったのは何か。その結果を私たちは書籍にもまとめた(『大震災のとき! 企業の調達・購買部門はこう動いた』、日刊工業新聞社)。

 一般に、そのような事態におけるリスクを低減するために、「マルチソース」と呼ばれる手法が取られる。簡単にいうと、生産場所や調達先の分散化だ。日本と中国で分けて生産する。あるいは、日本と中国の両方から調達する。そうすれば、どちらかに万が一の事態が生じても、何とか乗り切ることができる。

(出所:PIXTA)
(出所:PIXTA)

マルチソースは「絵に描いた餅」

 しかし、東日本大震災を受けて実施したアンケートでは、あまりに身も蓋もない意見が集まった。マルチソースは、現実には不可能だという。なぜなら、例えば電機メーカーや自動車メーカーは1つの製品に何千、何万もの部品を使っており、それら全ての調達を二重化することなどできるはずがない。だから、そもそも教科書やメディアでいうところのマルチソースは「絵に描いた餅」だという。

 これに対する反論として、「重要な部材だけでもマルチソース化せよ」という見解もある。しかし、製造業ではどんな部品でも1つ納品されなければ、結局は生産が止まる。

 さらに、興味深い意見として「シングルソースの方が早く復旧できた」というものがあり、私は驚嘆した。普通に考えれば、複数購買の方が良いに決まっている。しかし、例えばある部材について、A社から7割、B社から3割の比率で調達している状況を想定してみよう。ここでA社が被災した場合、教科書ではB社から代替品を調達すればよいということになっている。だが、現実にB社に代替品の生産を依頼すると、「いつもA社からたくさん買っているのですから、どうぞA社にどうにかしてもらってください」といわれたという。むしろ、1社から100%購入している場合の方が、取引先も責任を感じてくれて早めに復旧できたのだという。

 恐るべき逆説。

 なお、このような意見は決して珍しくなく、多くの企業から寄せられた。もしかすると、日本企業間の独特な習慣かもしれない。それでも、私に“現実”を教えてくれるには十分だった。