ストップウオッチを手に出発する。
そして、取引先の工場で作業者の動作を確認する。
「グリス塗布は、見積書では3秒となっていますが、2秒では?」
「いえいえ、段取り分を加算しているだけです」
「ところで、あちらの樹脂成形ですが、ワンショット12秒とありますが、9秒では?」
「それも段取り分を加算しています」
「段取りは何分で計算していますか?」
こんな会話を重ねていきながら、作戦を練る。
「それならロットで割り算し、その分をワンショットに加算すると、9+2=11秒が妥当ではないでしょうか?」
「いやいや、そう言われても、生産数が少ないときもありますから」
「逆に、多いときもありますよね。生産実績表を見せてください」
そうしてやっと1秒分のコストを値引くことができた。このような会話は、どこにでもあふれているだろうし、私の記憶の中にも多々ある。
私は、メーカーの調達担当者だった。合理的な理由がなければ、価格交渉をすることは許されない。強引に値下げしようとすると、それは「下請けいじめ」「買いたたき」になる。特にコンプライアンス意識の高い現在であればなおさらだろう。
やっと1円安くなった、と安堵していると電話がかかってくる。
「材料を輸入しているんですが、為替が振れてしまって、円安になったので、値上げしてもらえませんか」
「そんなこと言われても」
「それはこっちのセリフですよ。その材料は、御社からの指定なんですから」
このときは結局、一瞬でコスト削減の努力が吹っ飛んでしまった。他にも「海上運賃が上がった」「関税が変わった」「某国の政策で最低賃金が上がった」などコスト上昇要因は数え切れない。まさに、調達・購買業務は終わりの無い仕事だと感じた。
どんなに努力しても、それをはるかに超越する事象が起きる。下りのエスカレーターを上がっていくかのようだ。立ち止まったら下降していくだけ。何とかするしかない。
私はコンサルタントとなった今も調達の現場で七転八倒しているが、昨年からは、より悲痛な声が聞こえてくるようになった。
米中経済戦争のはざまで
米国は、ついに中国への制裁関税第4弾を発動する。これで、米国が中国から輸入する全ての品に関税がかかることになる。既に2019年9月1日からスマートウオッチやテレビ関連機器が対象となっており、さらに同年12月15日からは「iPhone」のようなスマートフォンや、ノートPC、ゲーム端末も対象に加わる。既存の制裁関税の関税率も従来は25%だったが、同年10月1日から30%に引き上がった。

それにしても、12月15日とは絶妙な時期である。米国内のクリスマス商戦に配慮したのだろう。クリスマスは12月25日だが、クリスマス商戦は11月に始まる。12月15日までには、ほとんどの商品が輸入されており、その影響は最小限になるとドナルド・トランプ米大統領は考えている。
逆に言えば、制裁拡大は米国消費に多大な影響があると認めてしまったようなものだ。中国側も新たな制裁関税に黙ってはおらず、自動車に35%の関税をかける見込みだ。