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Biki それが私の経験だと、30歳近くなると仕事や家庭が忙しいという自分への言い訳で小説や映画を最近は見ていない、という人が増えてしまいます。無理に読んだり見たりしても続かないので、やっぱり自分が好きである分野で「いつも何か読んだり見たりしている」という癖が大事です。

リアルに人と会う機会は減ってくる

井野辺 それで「なりきり力」が付くの?

Biki 動物の中で人間だけが持っていると言われている能力の一つが「他人が何を考え思っているかを想像する力」だそうです。だから小説やドラマを見ると、無意識に登場人物の気持ちを想定して、登場人物になりきってハラハラしたり感動したりするのです。

 そして「なりきり力」を高めるためには「自分ではない他の人たち」ってどんな環境にいてどんな生活を送っているのかを知る事も大事です。毎日のサラリーマン技術者の生活を送っているだけでは、さまざまな仮想ユーザーを作れません。そのためにも小説やドラマで「違う世界」に住んでいる人たちを知るのはとても大事です。

井野辺 営業職の方なんかは嫌でも毎日いろいろな人に出会って話をするものね。

Biki そうだね。技術者はどうしても「いろいろな人にリアルに会う機会」が少なくなりがちです。だから小説や映画がとてもいい。裏返すと「小説や映画はあまり興味ない」となってくるのは「人に興味がない」という兆候でもあるとも言えるのではないかな。

井野辺 じゃ、ボクは大丈夫かな。やたら映画とかたくさん見ているので。でも、思い出すとボクの場合だけど、技術開発の仕事から新規事業開発に異動した当時はあれこれなかなかうまくいかなかった悲しい記憶がよみがえるけどな。

Biki 例えば?

井野辺 自分の技術のことは分かるけど、事業をやるために知っておかなければならない経理や財務のことなんてホント恥ずかしいぐらい無知で…。損益分岐点も知らなかったし。

Biki でも何とかなったのでしょう。技術系の人は「事業開発なんて私には無理だ」と思い込んでいる人が多い。これも技術者が勝手に作りがちな壁。ちょっと考えてごらんよ。技術の人が経理や財務を学ぶのと、営業の人がある技術分野を学ぶのとどっちが大変?

井野辺 多分、営業の人が技術を勉強する方が難しいかな。

Biki だからやる気さえあれば技術者の方は事業開発に必要な知識を学ぶのは壁でも何でもない。そして、マーケティングなどのデータ収集・分析などで必要なロジカルな考え方がもともと身に付いている。つまり、「技術者だからの壁」ではなくて「技術者だからこそできること」は本当に多い。シリコンバレーでのベンチャーの経営者の多くは技術者であることもその証。

井野辺 そういわれればそうですね。

Biki そして、何より技術者には「作っちゃう力」がある。その力を使ってプロトタイプやコンセプトデモを作るのは本当に大事なこと。仕事で言われたこと以外の自分のアイデアも形にすれば、仲間も集めやすいし、上司の説得にも使える。

井野辺 でもステレオタイプな考えでBikiさんには怒られそうだけど、技術者の方は事業開発とかで必要なコミュニケーション能力が低い人が多くないですか?

Biki 確かに先ほども言ったけど、技術者は技術に向き合えばいいという面があって、人と向き合う必要性が少ない日々を送って、人としゃべるのが苦手、という人も多いよね。みんながみんなそうではないけれど。