
数年前までリコーに長年勤め、新規事業開発センター副所長や未来技術総合研究センター所長を歴任。現在はベンチャーから大企業まで幅広く新規事業のメンターや若手育成研修などを行っている。

大企業に勤める元エンジニア。入社10年目。現在は新規事業の立ち上げを行っている。
[♪オープニングの音楽♪]
Biki 深々とした夜の闇に心を休める時、いかがお過ごしでしょうか。大企業の中でいろんな壁にとらわれてモヤモヤしている若いアナタの背中を押す「ラジオ風コラム」の時間です。お相手は私Bikiおじさんと…。
井野辺 イノベーションの井野辺です!
Biki だいぶ居直った感じがいいね。
井野辺 はい、夏休みでリフレッシュしたので。早速、お悩みカードを引きますね。今日はどんな壁かな~。はい、今日はこちらで。タイトルは、「予算がない」。ストレートですね。では2次元コードを読ませてみますね。
(カードを読み込んで再生された動画)入社8年目のソフトウエア技術者です。経営陣からの「新規事業に挑戦しろ!」との掛け声もあり、いいチャンスだと思って、自分なりに事業の立ち上げ方を勉強したり、アイデアを考えたり、仲間を集めたりしています。最近、リーンスタートアップのように「取りあえずプロトタイプを作ってみたい」というアイデアが思い浮かんだので、上司に相談しました。上司は明るく、ちょっと調子がいい人で、「いいね! やってみよう」と言ってくれるのですが、必ずといっていいほどその直後に「でも、お金はないからね」と笑いながら言います。さすがにお金がないと何もできなくて…。
井野辺 「予算の壁」ですかね。
Biki それもあるけど、こういう一見若手をサポートしているようで、結局本当の「場」をつくれないマネージャーもたくさんいる、というのも問題です。
井野辺 「場」ですか?
Biki そう。若手がイノベーティブに自発的に動けるようにするのが「場づくり」。新しい事業や技術にチャレンジする上で、マネージャーの最大の仕事は場づくりといっても過言ではない。場づくりには、「お金」「時間(人)」「モチベーション」という3つの要素が必要です。この3つをマネージャーが準備したり、注入したりしなければならないのです。
井野辺 「場」か。
Biki 「バカ」ではないけど、既存事業だけを粛々とやっている一般的な管理職から見ると一見「バカ」にも見えるのは確かだね。
井野辺 あ、そんなつもりは。
新規事業の予算は融資ではなく投資で
Biki 分かっているよ(笑)。「予算」という言葉が出てきたけど、「予(あらかじ)め算段しておく」という意味だよね。
井野辺 なるほど。だから期初に「予算」を決めるのですね。
Biki そう。そして、それ自体が実は問題。
井野辺 あらかじめ決めておくことが問題なのですか?
Biki そう。既存事業であれば、新しい年度や期でどういう活動をして、どのぐらいのお金が必要かは大体想定できるから、あらかじめ決めておける。だから「予算」。
井野辺 まあ、そうですね。じゃあ、新規事業の予算というのは…。
Biki 類(たぐい)が違う。
井野辺 事前に想定しておくのは難しそうですね。
Biki 難しいというか不可能に近い。もし、「ちゃんと想定できる新規事業」なんて言う人がいれば、それは「ニセの新規事業」。
井野辺 またまた毒舌が…。
Biki 新規事業のためのお金には「投資」のマインドが必要です。既存事業の予算の考え方は「融資」。
井野辺 投資と融資ですか。もし人に説明しろと言われても、うまく説明できる自信はありません。
Biki そんなに難しくないけれど、技術者は普段考えないよね。融資は、返ってくることを前提として貸すもの。商品化したときの売り上げが見えているから、そのための開発や商品化準備にお金を使う。つまり、「そのうち間違いなく返ってくるから貸している」のが融資。
井野辺 じゃあ、投資は…。
Biki 「返ってこないかもしれない」もの。
井野辺 えー、じゃあなかなか投資できませんよね、心配で。
Biki その通り。心配だけが先に立つと投資はできない。「確実に売れて、開発費や事業の立ち上げにかけたお金が返ってくること」を求めると、融資的なマインドになってしまう。
井野辺 確かに新しいことにチャレンジしようとすると、「それは間違いなくもうかるのか」というコメントをするエライ人が時々います。本コラムの第4回では、そういうのを「ケチつけコメント」と言っていましたね。
Biki 投資型は、あらかじめ分かっていないことを前提にするのが大事です。
井野辺 いくら返ってくるかも分からないし、もしかしたら返ってこないかもしれない、という前提ですか?
Biki そう。そして、「結果が分からない」ことだけではなくて、「何に使うかも決まっていない」という前提も受け入れること。
井野辺 それって可能ですか?