
数年前までリコーに長年勤め、新規事業開発センター副所長や未来技術総合研究センター所長を歴任。現在はベンチャーから大企業まで幅広く新規事業のメンターや若手育成研修などを行っている。

大企業に勤める元エンジニア。入社10年目。現在は新規事業の立ち上げを行っている。
[♪オープニングの音楽♪]
Biki 深々とした夜の闇に心を休めるとき、いかがお過ごしでしょうか。大企業の中で色々な壁にとらわれてモヤモヤしている若いあなたの背中を押す「ラジオ風コラム」の時間です。お相手は私Bikiおじさんと……。
井野辺 「相談カード」を引く担当の井野辺です!
Biki いやいや、それだけじゃないだろ。ま、とにかく引きたいのね。
井野辺 はい! じゃあ、えい! 今日のカードです。
(カードを読み込んで再生された動画)入社12年目で、新規事業の立ち上げを始めてから1年。この1年を振り返ると、ほとんどの時間とエネルギーを社内での交渉に費やしてきたような気がします。本来は事業の立ち上げそのものに力を注ぐべきなのですが、新規事業なのでリソースもほとんどなく、予算や人員の確保に奔走するのは仕方がないと思っています。それにしても本当に社内で協力を得ようとすると大変です。説得や交渉に役立つこつはあるでしょうか?
井野辺 分かる、分かる! ほんと、色々な人と交渉するための資料作りと打ち合わせで日々が過ぎていってしまいます。
Biki そんなものだよね。私も会社員をやっていたときは毎日が説得や交渉だらけだった。
井野辺 それでは、今日はBikiさんからの「社内説得・交渉の秘技」というお題でお願いします!
Biki はいよ、ご注文ありがとうございます!
井野辺 何か居酒屋の店員みたいですね。
刺さるポイントを見つけ出す
Biki 説得や交渉で一番大事なのは、相手によってポイントが異なるということをちゃんと意識しておくことです。
井野辺 資料作成やプレゼンテーションのときは、オーディエンス(聴衆)が誰かということをあまり考えずにやってしまいがちですね。
Biki 交渉相手が何に一番こだわっているか、または何が一番の関心事かを考えましょう。ただし、勝手に考えると「外して」しまう確率が高いので、事前にその人の周辺に聞き込みをしましょう。「最近Aさんはどう?」とか「Aさんは今は××で大変だと思うけど、そんな感じ?」みたいに……。
井野辺 聞き込みかあ……。今度は居酒屋から探偵に変身したみたいですね~。
Biki 聞き込みもパーフェクトじゃない。だから、説得や交渉の最中に「ははあ、この人は××に興味あるな」とか「○○さんとの関係を気にしているな」とか「結局予算のことだけか」なんてことを感じ取り把握して、「じゃあ、この話でどうだ」とアドリブのように色々な方向から話を投げかけてみる。そして「刺さる」ポイントを見つける。
井野辺 わあ、高度……。
Biki 「あれこれぶつけて様子を見る」ために、色々な素材や引き出しを準備しておけるのがよい。
井野辺 どうやってそんなもの準備するのですか?
Biki 私の場合は、とにかく説得や交渉の回数を積み重ねること自体が、別の人との交渉に役立つという実践タイプだったけどね。自然にアドリブで。
井野辺 それはアドリブが苦手な人には難しそうですね。
Biki もちろん、色々なパターンを想定して、それにどう答えるか、あるいはどういう問いを投げかけるとその交渉相手のこだわりなどが分かるか、を事前に検討しておくのも悪くないけど……。
井野辺 けど?
Biki 若い人だと交渉の経験そのものが少ないから想定しにくいことも多い。なので、交渉の達人の打ち合わせに同席させてもらい、「ははあ、なるほど、こんなふうにやるのもありなんだ」とリアルな場で勉強するのもよい。
井野辺 Bikiさんも交渉の達人だったのですね!
Biki そういうことにしておこう。成功確率が高いわけではなかった気もするけど。
ロジカルな説得は崩される
井野辺 説得や交渉ではロジカルに攻めるというのが基本だと思うけど、相手が気にすることも考慮するってことですか? 何か相反しているような気もするなあ。
Biki 基本はロジカルに、ストーリーを明確にするのが大事。でも、ロジカルに話すというのは階段を上っていくようなもので、例えば「AだからBですよね」と1段目をクリアし、「BなのでCですよね」と2段目に移って、「D」「E」「F」へと誘導していく。ところが、「やっとFまできた」と思っていたら、相手から「ところで、なんでBなんだっけ?」とせっかく積み上げたロジックをだいぶ前のところからひっくり返されることがよくある。
井野辺 それは疲れますね。せっかくこちらの話に持っていけると思っているのに……。
Biki その原因の多くは、「相手が気にかけていること」をちゃんと早めに「大丈夫ですよ、それについては」と話せていないから。人間、自分が気にしていることばかり気になって、「いつになったらあの話が出てくるのだろう」となるので、話を聞けなくなっていることがままある。だから、階段を上っているつもりでも、途中で引っ掛かって止まった状態になっているんだ。
井野辺 そうならないように、「相手が気にしていること」を早めに把握し、それにとらわれないでこちらの話を聞いてくれるようにするのが大事なのですね。
Biki そうです!
井野辺 でもそれってある意味、忖度(そんたく)みたいな気がするなあ。
大阪のおばちゃんに学んでみよう
Biki そうだね。それとは対極の「相手がどう思おうと構わない」というやり方もある。実はそのやり方は結構強い。
井野辺 それ、どんなやつですか?
Biki 交渉の達人、「大阪のおばちゃん」がやっていること。
井野辺 何やそれ。
Biki 既に大阪モードになっているな、さすが。
井野辺 はよ教えてぇな。
Biki 八百屋で大阪のおばちゃんが値切り交渉をしている、という設定にしよう。
井野辺 ネギでっか? ジャガイモでっか?
Biki そんなんどっちでもええ……。あかん、釣られた。大阪のおばちゃんが店のにいちゃんに値切りの交渉している場面としよう。以下、1人でやるから聞いていてね。
井野辺 ええで。