大阪のおばちゃん、3つの交渉術
Biki まず、大阪のおばちゃん交渉術の1。
おばちゃん「なあ、にいちゃん、あと10円まけてえな」
店のにいちゃん「もう20円もまけとるやろが。あかんて」
おばちゃん「そんなん言わんとあと10円まけようや」
店のにいちゃん「あかんて」
おばちゃん「そや、昨日の阪神、ほんまにあかんたれやったな」
店のにいちゃん「駄目虎復活やな。あそこで打たんでどうするんや」
……としばらく野球の話が続き、また突然、
おばちゃん「な、10円まけてぇや、ええやろ」
店のにいちゃん「だから、あかんて。もー、しゃーないなー」
井野辺 大阪のおばちゃんはしつこい、っていうことですか。
Biki そう。諦めない。アホみたいに同じことを繰り返すことができる。大企業の頭でっかちな人は、1度交渉して駄目出しを食らったら、「駄目だ」と諦めてしまうけれど、大阪のおばちゃんは諦めない。同じ提案でも何度も何度も繰り返すうちに相手も「仕方ないな」と思ったり「こいつ本気だな」と理解してくれたりするようになる。
井野辺 ははあ……。
Biki 次は、大阪のおばちゃん交渉術の2。
おばちゃん「なあ、にいちゃん、あと10円まけてえな」
店のにいちゃん「もう20円もまけとるやろが。あかんて」
と、振り向いておばちゃんに言おうとしたら、いつの間にかおばちゃんの顔が10cmぐらいの超近距離にある。
店のにいちゃん「どわっ!」
おばちゃん「な、あと10円でええから」
井野辺 確かに大阪のおばちゃんは知らない人でもやたら近くに寄ってきて、体を触ったりたたいたりしてきますね。
Biki これは無意識に動物の本能を活用した交渉術。動物はある程度の距離の外側にいる他の動物を敵と認識する。その敵が自分のテリトリーに入ってこようとすると攻撃態勢をとる。一方、家族は近くにいる。大事で安心できる人は近距離にいる、と感じている。
井野辺 交渉には物理的な距離も大事ということですね。
Biki そう。だから役員とか部長とかに交渉するときに、役員会議室みたいな広い部屋で大きな会議テーブルがあって、交渉相手との距離が5mもあるようなところで交渉するのは最悪。その時点で「対決姿勢」から抜け出せない。
井野辺 じゃあ、どうすれば。
Biki 「すみません、大きな会議室が取れなかったので、今日はこちらの小さな会議室でお願いします」と言って相手を小さな会議室に連れ込んで、「あ、この部屋はプロジェクターがないですね。すみませんが、私のPCの画面で説明させてもらいます」と言って、その交渉相手の横の席に座って、話をする。距離は30cmぐらいになる。
井野辺 そりゃ近い……。
Biki 近ければ、無意識に「何とかしてやろうかな」という気持ちに傾くものです。
井野辺 偉い人とそんなに近くに座るのも緊張するな……。