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 「偽装請負」や「派遣請負適正化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。製造業と並んで、IT業界は偽装請負の温床と呼ばれることがあります。システム開発プロジェクトの現場で、意識しないうちに偽装請負の状態に陥ってしまっていることは少なくありません。

 どのようなときに偽装請負に陥りやすいのか、そうならないためにどうすればよいのか、以下で見ていきましょう。


「これ、作ったんですが」

 SEの東川博が持ってきた座席表を見て、プロジェクトマネジャー(PM)の間宮涼は首を傾げた。

「これねぇ」

 東川は、慌てて確認する。

「どこか間違ってましたか?」

 間宮は、東川の顔を見返した。

「そうじゃないよ。座席表自体、提示していいものかどうかちょっと悩んじゃってるんだ」

 東川は目を丸くして聞いた。

「座席表を作ることに、何か問題でも?」

 間宮は珍しく歯切れが悪い。首をかしげながら言う。

「一応、うちは請負でここに入ってるから」

「間宮さん、契約は準委任になってますけど」

 間宮は首を横に振った。

「そういうことじゃないよ。東川くん、偽装請負って言葉は聞いたことある?」

「何となく…」

 間宮は辺りを見回してから、声を低めて言った。

「ここのお客さん、もともとコンプラに無頓着なんだ。昨日だって、ほら、藤田部長が清水さんたちを席に呼びつけて、さんざん説教してただろう?」

「はい。でも清水さんが作業ミスをしたんだから、あれは仕方がないと…」

 間宮は首を横に振った。

「うちのメンバーへの指揮命令は、我が社の専管事項だよ。たとえ準委任契約でもね。藤田部長には、メンバーに直接指示したり説教したりする権限はないんだ」

 東川は、また目をみはった。

「そうなんですか?」

「そうだよ。こんな職務実態だと偽装請負と言われかねないから、一度藤田部長と相談しなきゃと思ってたところだ。だからこの座席表が気になってね」

 フロア全体の座席表を作ろうと言い出したのは、当の藤田部長だった。コミュニケーションを円滑にするために、という目的には誰も異を唱えることができず、東川が自社チーム分の座席表を作成したのだ。間宮以下、タイガーゲート社のメンバーは、2年以上にわたって、この客先企業に常駐している。

「実際、この通りに席についてるんだから問題ないと思うんですが」

 東川は言ったが、間宮はまだ煮え切らない。

「うーん、どうしようかな…」

 悩んでいるPMの背中から、若い協力会社メンバーの小林星雄が声をかけた。

「今日は上がります。お先です」

「あ、お疲れさま」

 応じる間宮の横から、東川が小林に声をかける。

「星ちゃん、明日は8時半頃来てもらえるかな。朝会やりたいんで。昼から藤田さんとこに挨拶に伺うから、スーツを着てきてね。よろしく」

「了解」

 気軽に応じた小林の言葉にかぶせるように、間宮が厳しい声を出した。 「ダメだってば、東川君」

請負契約の協力会社の社員への直接指示はNG
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