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プロジェクトの関係者が善意で招集した打ち合わせが、必要のない時間つぶしになることがあります。リモートワークが当たり前になった現在はなおさら、無駄な打ち合わせは避けたいものです。せっかくの打ち合わせが無駄な仕事にならないようにすることが大事です。

 無駄な打ち合わせに時間を取られてプロジェクトが滞るのを防ぐにはどうすればよいのか。今回はリモートでなくリアルの場での例ですが、考え方はリモートワークでも同じです。ポイントを以下で見てみましょう。


 小野田吐夢は腕時計を見た。そろそろ、開発環境の打ち合わせのために、霞ケ関インターナショナルに出かけないといけない時刻だ。営業部の日下に「30分だけ」と言われて始まった打ち合わせは、既に1時間以上が経過していた。

 日下は、いつもののんびりした口調で言った。

「基本契約を締結するには時間が足りないんだよね。お客さんの法務、うるさいから」

 契約担当の菅野が、深刻な顔で応じる。

「だったら個別契約で逃げ切るしかないでしょう」

「でも、そもそも基本契約がないのはおかしいって、部長に言われてるんだよ。それで困ってるみたい」

 さっきから議論が堂々巡りをしている。菅野が言うように、基本契約が間に合わないのなら、個別契約で逃げるしかないし、どうしても基本契約を締結するというのなら、時間をかけるしかない。基本契約は締結したいが作業をすぐにでも始めてほしいという顧客のわがままを、営業の日下がそのまま持ち帰ってくるからこういうことになる。

 常ににこやかな日下に向かって、菅野が畳みかける。

「つまり、いったん個別契約で進めるってことですね」

「でも、先方の部長が基本契約にこだわってるしなぁ…」

 小野田は、ついに立ち上がった。

「開発チームとしては、契約がなければ作業を始めないだけです。じゃあ、そろそろ出ないといけないんで」

 日下は、すがるような目で小野田を見た。

「じゃあ、帰ったらまたちょっと話をね…」

 曖昧に手を振って、小野田は会議室を出た。急いで地下鉄に飛び乗り何とか時間通りに霞ケ関インターナショナル社のプロジェクトルームに駆けつけてみると、小野田を呼びつけたはずの岸本課長はまだ戻っていなかった。小椋主任が申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみません、小野田さん。運営会議が長引いていて…」

 気を遣って小椋主任が差し入れてくれた缶コーヒーを飲みながら、小野田はしばらく雑談に応じた。ラグビーのワールドカップの話題が佳境に入ったところで、当の岸本課長がプロジェクトルームに飛び込んできた。

「いやー、小野田さんすまんすまん」

「いえ、こちらもギリギリに着いたところでした」

 岸本課長は打ち合わせ用の長テーブルの前に腰を下ろすと、小野田に向かっておもむろに切り出した。

「開発環境の設定手順書のことなんだけどね。少し早めにもらえないかと思って。全部じゃなくても、別紙1と別紙3、パラメーターシートと論理構成図の部分だけでいいんだけど」

「あ、はい」

 言われたことに戸惑って、小野田は首をかしげた。

「別紙1と別紙3でしたら、一昨日ドラフトを小椋主任にお送りしたところですが」

 岸本課長は素っ頓狂な声を上げた。

「あれっ、小椋くん、別紙って受け取ったの?」

 部屋の反対側で小椋主任が立ち上がった。

「はい。一昨日」

「インフラチームには?」

「すぐに転送しました。今日中にチェックするって言ってましたけど」

「ごめんごめん、小野田さん。もうインフラチームが見てくれてるんだったらいいんだ。せっかく来てくれたんだから、ちょっと移行の相談でもしようか?」

 はあ?小野田は思わず声に出して言いたくなった。そのためだけに呼んだの?ここまで駆けつけてくる必要も、ワールドカップの話をしながら待つ必要もなかったってこと?