アクセシビリティーの確保は、事前に考慮しておけば簡単に盛り込めるものも多くあります。一方で、視覚障害者が利用するスクリーンリーダーへの対応では、代替情報の設定や試験などの対応が必要となることもあり、工数が増える可能性がないとは言えません。
かつて公共機関の申請システムのアクセシビリティー対応に取り組んでいた際に、視覚障害のある方から「今までは個人的な情報も、必ず誰かに伝えて書いてもらっていた。それが自分1人でできることは画期的です」と声をかけてもらいました。自分たちが作るシステムが、想定以上に障害を持つ方々の生活に影響を与えていることに気付かされます。
また、昨今は電車内で字幕付きの動画コンテンツを多く見かけます。字幕は聴覚障害者だけではなく、音を出せない環境にいる人などにとって便利です。アクセシビリティー対応を「やらない」と決定することは簡単ですが、限られたコストと期間の中で、様々なユーザーや利用環境を考慮したうえで、対応可能な範囲を探してみましょう。
また利用環境も重要です。パソコン、タブレット、スマートフォン、テレビ、スマートスピーカーなど、ユーザーが使用するデバイスは、ますます増えてきています。洗い出したユーザーが、どのようなデバイスからアクセスするのか、システムとしてどこまで保証するのかを決める必要があります。
昨今のアクセシビリティーの中では、「マシンリーダブル(機械が正しく読み取れること)」という考え方も基本となってきました。多様なデバイスが今後も増え続けていく中で、機械が読み取れる標準化された技術や実装方法を採用することが、ますます重要になります。HTMLなどであれば、W3C標準にのっとったコーディングにより、多くの機械や検索エンジンなどが読み取れます。より多くのユーザーに届けるという発想で実装技術や手段を選ぶ視点も持ちましょう。
STEP4:「UXデザインコンセプト」として明文化する
ここまで整理した要件を資料としてまとめます。戦略フェーズでまとめた資料と、それを踏まえた要件や対応方針を記載した資料を併せて、「UXデザインコンセプト」として明示しておきます。
特にシステムのユーザーの体験に特化したコンセプトとして、数行のキャッチフレーズなどを考えて、ユーザーがシステムを使って得られる「価値」をコンセプトとしてまとめます。また、ユーザーの要求とそれに応じて重要となる「機能」も併せて明文化しておきましょう。
UXデザインコンセプトでは、コンセプトや戦略フェーズでまとめたユーザー要求、ユーザビリティー方針、アクセシビリティー方針などを盛り込みます。
UIの策定時に困たときは、UXデザインコンセプトが役立ちます。UIを策定する際に、「ユーザーがXXXだから、このUIにしました」と説明をすることで、好みなどで議論が発散することを防ぎ、合意形成が円滑に進みやすくなります。
UXデザインの手法は数多くあります。ユーザーの理解をもっと深めたい場合は、ぜひユーザーへのインタビューに加え、現場に足を運んで観察する「エスノグラフィー」や、実際にサービスを体験する「サービスサファリ」という手法にもチャレンジしてください。
NTTデータ 公共・社会基盤事業推進部 プロジェクト推進統括部 技術戦略担当 シニア・エキスパート
NTTデータ 公共・社会基盤事業推進部 プロジェクト推進統括部 技術戦略担当 シニア・エキスパート