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AIがサイエンスの方法論を変える

 続いて丸山氏が示したのか「コンピューターサイエンスのフロンティア」としての人工知能だ。

 例えば、プログラミング言語における「再帰呼び出し(関数の中で同じ関数を呼び出すこと)」は、大きさの異なる輪を移動させるパズル「ハノイの塔」を解くAIの中核アルゴリズムとして広まった。「1970年当時はFORTRANなどで再帰呼び出しが使えず、ハノイの塔を解くAIは(再帰呼び出しが可能な)LISPで記述していた。その後、大半の言語が再帰呼び出しに対応するようになり、コンピューターサイエンスに組み込まれた」(丸山氏)。

第1次、第2次ブームのAI技術がコンピューターサイエンスに取り込まれた
第1次、第2次ブームのAI技術がコンピューターサイエンスに取り込まれた
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 このほか、初期の自然言語処理技術はコンパイラーに、知識表現におけるフレームの継承はオブジェクト指向などに生かされたという。今、これらの技術を「AI」と呼ぶ人は誰もいない。「第3次ブームで開発されたAI技術がコンピューターサイエンスに何を残すのか、大変に興味がある」(丸山氏)。

 丸山氏は深層学習や統計的機械学習について、コンピューターサイエンスのみならず科学(サイエンス)そのものの枠組みを変えるのではないか、と期待する。

 物理学を中心に、科学の営みの多くは演繹的なアプローチを採る。研究者は仮説に基づいて単純なモデルをつくり、そのアルゴリズムを数式やソースコードの形で記述する。そのモデルが観測結果をうまく説明していれば、仮説やモデルの正しさを実証できる。

 一方で深層学習や統計的機械学習は、「単純なモデルもアルゴリズムも不要」(丸山氏)。複雑な事象を単純化せず、複雑なまま扱い、モデルを生成できる。

第3次ブームのAIは、科学に新たな方法論を持ち込む
第3次ブームのAIは、科学に新たな方法論を持ち込む
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 従来の科学は、できるだけパラメーター(次元)の数を削ぎ落とした単純な仮説やモデルで多くの現象を説明する「オッカムの剃刀」という考え方を良しとしていた。

 だが丸山氏によれば、これとは異なるアプローチで成果を上げる例が相次いでいるという。例えばPFNが国立がんセンターと共同で手掛けるがん診断技術は、血液中に4000種類以上あるRNAについて、がん特定に寄与する少数のRNAを探索するのではなく、4000種全ての発現量を同時にみることで、診断精度を高めることができたという。

これまでの科学技術計算と「ブラックボックス計算」の違い
これまでの科学技術計算と「ブラックボックス計算」の違い
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 既存の科学が「オッカムの剃刀」の考え方を採ったのは、そもそも人間は数百~数千次元ものパラメーターを直観的に理解できないためだ。高次元のデータをそのまま使える深層学習や統計的機械学習を使えば、「人間の認知限界に拘束されない、新たな科学ができる可能性がある」(丸山氏)という。

人間の認知限界に拘束されない科学
人間の認知限界に拘束されない科学
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