建設業の死亡事故は約4割が高所から落下する「墜落」だ。墜落事故は危険を意識していれば防げる場合も多い。そこでVR(仮想現実)技術を活用して、経験の浅い作業員を疑似的に「痛い目」に遭わせる安全研修が注目されている。場合によっては死を疑似体験することで、重大事故の怖さを体に刻み込む。かつてベテラン作業員の経験談などから学んだ危機意識をVR技術によって現場に根付かせる試みだ。
CGやVR映像を作成する積木製作(東京・墨田)セールスディビジョンの関根健太シニアディレクターは、「近ごろは特定の現場や建物、作業に合わせて安全研修VRを製作してほしいというニーズが高まっている」と話す。こうした依頼は2017年ごろから特に増えてきたという。
積木製作は15年にVR安全研修のコンテンツ開発を始めた。エンターテインメントの分野で活用していたVRコンテンツを教育に応用できないかとの発想からだ。16年には電気機器メーカーの明電舎に製品を納入している。明電舎が導入したVRによる安全体感教育は「墜落」「転落」「火傷(やけど)」などだ。
例えば「墜落」では、VRヘッドマウントディスプレーに再現された高層ビル桟橋から地面に向かって落下する。「火傷」はディスクグラインダー使用時に誤って火花を顔に浴びる。疑似体験だと分かっていても思わず「わっ」と声が漏れるなど、多くの体験者はその怖さに反応するという。関根シニアディレクターは「怖さを体験することで安全帯(墜落抑止用器具)や保護ゴーグルの大切さを学ぶ。VR体験者の9割以上は『意識が変わった』と話している」と言う。