航空機の客室で火災あるいは急減圧が発生する。そんな非常事態への対応を含む訓練用VR(仮想現実)システムを、全日本空輸(ANA)が客室乗務員訓練生向けに導入している。
訓練生はヘッドマウントディスプレーを装着して1人ひとり個別のVR空間に入る。VR空間では「パニックを起こす乗客」を加えるなどして、非常事態の機内をリアルに再現。その中でトレーニングを行う。
訓練センター内には実物大の機体のモックアップを用意しているが、飛行中の航空機内で火災や急減圧が起こるとどのような状況になるかを再現できない。「よりリアルな訓練にするために、VRでしか体験できない訓練用コンテンツとして火災と急減圧を用意した」。訓練へのVRコンテンツ導入に携わった井出裕加吏客室センター客室訓練部訓練業務課アシスタントマネージャーは狙いをこう話す。
客室乗務員の訓練でのVRの用途はそれだけではない。機内のギャレー(調理室)の安全確認にも使う。ボーイング777型機や同787型機の実物大のギャレーがヘッドマウントディスプレーによって訓練生の視界に再現される。
訓練生はVR空間のギャレーで、制限時間内に扉などのロックを全て確認する訓練を実施する。ロック確認は出発前や着陸前などに必ず実施するものだ。制限時間内に全てのロック確認を終えれば、ギャレー内に「Success(成功)」の文字が浮かぶ。終えられないと、ロックできていなかった扉が一斉に開き、中に入っているものが飛び出してくる。
実機でこうした確認漏れがあると、離着陸時の衝撃で本当に中身が飛び出す恐れがある。場合によっては中身が客室まで飛んでいって乗客のけがなどにつながる危険もある。離着陸の準備で忙しいときでも漏れのないロック確認が欠かせない。