本記事は「日経xTECH」2019年5月13日号のニュース解説「トヨタ・パナ連合に挑め、地場住宅メーカーの武器は『VRモデルハウス』」を再構成したものです。
日本ユニシスがスマートフォンを活用したVR(仮想現実)システムでモデルハウスを疑似体験するサービスを強化している。同社が開設した仮想住宅展示場「MY HOME MARKET」はVR空間で図面や写真では分からない建物の雰囲気を知ることが可能だ。狙いは2019年時点で20代から30代半ばの「ミレニアル世代」。時間と空間を超えて顧客にアプローチできるVRモデルハウスは、旧来の販売手法が通じない“新世代”に訴求する武器となる。
住宅メーカーにとってMY HOME MARKETを導入するメリットは大きい。経済産業省が監督するサービスデザイン推進協議会による「平成30年度補正予算 サービス等生産性向上IT導入支援事業」にMY HOME MARKETが採択されたためだ。建設や土木事業者、または不動産事業が導入すれば最大150万円のIT導入補助金を受け取ることができる。申し込み期間は2019年7月17日から同年8月23日までで、同年9月上旬に交付が決定する。
記者もMY HOME MARKETを体験してみた。千葉市のハウスメーカー、新昭和ウィザーズ東関東がVR空間に設置した住宅の内部に入ると、窓際の観葉植物までの距離や壁際に設置したテレビの大きさなどが手に取るように分かった。
MY HOME MARKETを導入するハウスメーカーが徐々に増えている。19年4月からは「ヘーベルハウス」を展開する旭化成ホームズが営業ツールとして採用した。
日本ユニシスは22年度までに1500棟のVRモデルハウスの展示を目指しており、将来的には地域金融機関のネットワークを活用して用地提供や住宅ローンの提供を進めるビジネスモデルを構築する。
VR空間は、スマートフォンでMY HOME MARKETのWebサイトにアクセスして閲覧する。サイトを表示したスマートフォンを市販のVRゴーグルに組み込み画面を2分割表示すると、モデルハウスの見学を疑似体験できる。VR空間の街に入ると、建物の値札が付いた住宅が並ぶ。こうしたVRモデルハウスは「セミオーダー型規格住宅」と呼ばれる。家の外観や間取り、内装などの種類を絞り、販売価格を可視化した住宅だ。
日本ユニシスは17年に仮想住宅展示場を構築・運用するためのシステムを開発しており、VRモデルハウスを提供するハウスメーカーを募ってきた。プロジェクトを担当した、日本ユニシスの多勢正英グループマネージャーは「セミオーダー型規格住宅のVRモデルハウスはミレニアル世代の需要に焦点を絞ったもの」と話す。ミレニアル世代とは2000年代(ミレニアル)に成人する世代で、先述の通り19年時点で20代から30代半ばの年齢層だ。自分で情報を積極的に集めて学習するこの世代は、従来型の住宅販売の手法がそぐわない例が多い。
例えば価格交渉。ハウスメーカーが住宅を販売する場合、まず建築概要について詳細を詰めた後に価格を相談するのが一般的だ。しかしミレニアル世代は最後に見積もりを出すまで価格が分からない不安感を敬遠する傾向にあるという。
VRモデルハウスには既に値札が付いており、床や壁紙を変更すると追加の価格が明示される。各種部材の選択肢はほぼ3種類。多勢グループマネージャーは「部材選択の幅をあえて絞った。選択肢が多過ぎると購入の意思決定に時間がかかって買う意思を失うこともある」と話す。