ただ筆者が見た範囲では、人種のダイバーシティーにはまだ課題があるようだ。PyConへの参加者の多くは白人で、アフリカ系やヒスパニック、アジア人の参加者は多くはなかった。PSFにも問題意識はあるのか、PyCon 2019のカンファレンスの初日にはスペイン語トラックが設けられていた。
初心者を歓迎するコミュニティー運営姿勢
ここからはPyConで見たPythonを利用するプログラマーや、そうしたプログラマーを支えるコミュニティーの動向を紹介しよう。
PSFはコミュニティーでの運営を重視している。PyConはPythonを利用するプログラマー(Pythonistaと呼ぶ)によるコミュニティーイベントであり、そうなるようにPSFは努力をしているという。オープニングで運営者がそのように語っており、発表の中で出てくる言葉遣いからも感じ取れた。
トークセッションやブース出展でもPythonをどう利用しているのかを紹介する人が多かった。Pythonの用途は日本と似ていてデータ分析に使われるケースが多く、Webアプリケーション開発やOS基盤にも使われている。PyCon 2019ではIoT(インターネット・オブ・シングス)分野でもデモなどを交えた展示があった。Pythonの利用は年々拡大していて今回が初参加という人も多かった。
ダイバーシティー対応への活動の一環として女性エンジニアへの教育に力を入れているとも感じた。代表例が「Django Girls」という女性エンジニア向けのチュートリアルだ。Web上のチュートリアルコンテンツのほか無料のワークショップも開催している。さらにコンテンツの英語以外への翻訳や、世界各地でのワークショップも開催している。
Pythonは学びやすく初学者にも教えやすいと考えられている。これは米国でも日本国内と同じように語られていた。ただそれは言語仕様の話であり、実際に学びやすいかどうかはコミュニティーに左右される。例えば初心者がコミュニティーに入りやすい環境作りをしているかどうか、世界各地の母国語で気軽に学べるかどうかは重要だ。
Pythonを使うプログラマーがどれだけ増えても、初学者や初心者は常に存在する。こうしたことは何年もコミュニティーを運営していると忘れがちだ。Django Girlsの取り組みやPyCon 2019にスペイン語トラックを設けるPSFの姿勢を見て、改めて考えさせられた。以下のポイントをPythonコミュニティーの運営者は忘れてはいけない。
- 皆が集まれる場所・カンファレンスの開催
- 初心者向けチュートリアルなど学習機会の提供
- スプリントやハッカソンといった開発者が集まれて議論できる場所・時間を作る
- 日本語で読めるドキュメントや書籍を書く
- 学習目標の提供
学習目標として重要だが難しい試験作成
学習目標の提供では試験という形で分かりやすいハードルを示すのが有効となるケースも多い。こうした考えに基づき筆者が顧問理事を務める一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会(Python ED)は、日本国内向けにPython 3 エンジニア認定試験を提供している。ただ試験をどう作成すればいいのかは常に悩んでいる。
PyCon 2019のカンファレンス2日目に、PSFエグゼクティブディレクターのエワ・ヨドゥルスカ(Ewa Jodlowska)氏(エワ氏)と情報交換する機会があったので、筆者の考えや悩みをぶつけてみた。同氏はPSFでコミュニティー全体を見る立場にある。
エワ氏は「PSFとしてはPythonの技術者認定は行っておらず、作るのも難しいだろう」と語った。試験作成が難しい主な理由として、組織や地域ごとにニーズが違うこと、バージョンアップに伴う追従が難しいことを挙げていた。
ただ試験の作成自体に否定的というわけではなく、「地域のニーズに合った教育プログラムを提供する会社は様々な地域に存在する。独自に教育や学習目標の設定をしている」(エワ氏)と話していた。筆者らの取り組みを紹介したところ「難しいだろうけど、成功を願っている」との応援のコメントをもらった。
エワ氏の指摘は重く受け止めたい。Python EDの基礎試験はPython 3.5のチュートリアルを基にしている。現行の3.7との差異で文法の間違いが生じるといった事態にはなっていないが、新しく実装された機能や文法は取り入れられていない。その点は今後の課題になってくる。
また現在データ分析エンジニア向けの「データ分析試験」を準備しているが、基礎を超えたレベルになると受験者のニーズが多様化する。試験のターゲット設定や受験者のモチベーションの鼓舞について、さらに深い議論を重ねる必要があるだろう。
CMSコミュニケーションズ 代表取締役
一般社団法人PyCon JP 代表理事
一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会 顧問理事
公開当初、第7段落の最終文で「PyCon JP」を「Python JP」と誤記していました。おわびして訂正します。本文は修正済みです。 [2019/06/28 16:20]