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「シティー」という言葉に目を奪われて、生活空間のスマート化に必要な視点に欠落が生じていないか。テクノロジーを用い、むしろ局所的な開発から始める可能性も開けてきたのではないか。都市関連のビジネスに関して意見を聞かれる立場でもある2人、都市計画家の饗庭伸氏と建築家の豊田啓介氏による議論の最終回をお届けする。

※下記リンクは「中編」

豊田 ここまで、都市をコントロールする手段は従来どんなものだったのか、今後どんな方向に向かい得るのかをお話しいただきました。ここからは、いわゆるスマートシティーという文脈からお聞きしてみたいと思います。

 最初に(上編で)触れましたが、僕は前提として「スマートシティー」という言葉があたかも1つの概念であるかのように使われている状況は、とてもミスリードだと考えています。特に日本では多くの場合、エネルギー領域で使われる言葉だったことにも関係します。業界によって、スマートシティーが扱うと思われている領域や、いわゆるスマート度の理解に、かなりのずれがあるわけです。

 今目指しているものが離散化や流動化を実現するためのプラットフォームであるという考え方を取るならば、郊外や地方、田舎やリゾートまで等価に扱って初めて、価値を持ち得るはずです。なのに「シティー」と言って、都市に閉じてしまったら駄目だと思います。

noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授の豊田啓介氏。プロフィルは最終ページ参照(資料:日経クロステック)
noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授の豊田啓介氏。プロフィルは最終ページ参照(資料:日経クロステック)
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 もう1つ、僕がとても重要だと思うのは、これからの世界を物理空間の人間の視点だけで見ていたら、意味がないということです。

 具体的には、都市における既存の物理領域をデジタル技術でカバーする環境が整備されていけば、自律走行のロボットや車が、より複雑なレベルで人と共存できるようになります。非物理的なアバターがAR(拡張現実)によって現れたりするし、アバターがロボットに乗り移ったりもする。

 そうした人間以外の色々なデジタルの「住人」に、僕は最近あえて名前を付けて、「NHA(Non-Human Agent)」と呼んでいます。NHAのようなエージェントが普通に我々と混在する世界を考えるなら、人間中心の計画やデザインは合理的ではなくなってくるわけです。

 ロボットに認識しやすい道やドア、ARアバターが陰線処理をしやすい家具や柱といったように、これまでは存在しなかったNHAの視点で環境を理解し、記述しておいてあげる。そうした配慮が、これからの都市環境で人の生活価値を高める重要なカギになる。都市の価値を最大化するにはもはや、人間だけを住人や受益者だと考えていたらいけないんです。

 要は、建築や都市を扱う立場の人間は、NHAを含む全ての住人にとってユニバーサルな都市の構造や、その記述の仕方を考える必要がある。そうでなければ、これから先の生活も、社会にしろ経済にしろ、拡張的に考えるなんて無理じゃないかと思います。

 人間もNHAも共通に理解できるようなプラットフォームが必要です。だから僕は最近いつも、都市の「コモングラウンド」の話をしているわけです。そうした視点で都市を扱おうとするとき、都市計画はどうなっていくのかに興味があります。

饗庭 スマートシティーの観点でデータの話をすると、土地利用の管理に関しては、東京都が1990年代にGIS(地理空間情報システム)を用いた仕組みを実装しています。進展は遅かったけれど、最近は市町村にも波及しているので、進化したんだなと思います。といっても、理論レベルでは20年くらい前と大差ないことをやっています。

 それ以外にも、自治体が持っているデータはたくさんあって、自治体の内部では統合されているところもある。しかし、これも活用はまだまだの段階で、伸びしろはあると感じています。

 あとは、それらのデータを活用する際の理屈の話ですね。少し前に、AI(人工知能)分野から呼ばれて研究開発に参画したものの、街づくりとAIがうまくかみ合わなかった経験があります。

豊田 どんな参画の仕方だったんですか?

饗庭 AI分野の方々に「街づくりとは何か」を教える役割でした。