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 建築・都市の領域とコンピューターサイエンスの領域を架橋する立場の吉村有司氏と、建築家の豊田啓介氏による議論の最終回。リアルとデジタル双方の多様な技術領域を接続し、人とモノが「対等」に働き掛け合うを基盤をつくる。その足がかりはできつつある。

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左は、2019年に東京大学先端科学技術研究センター特任准教授に就任した吉村有司氏。右は、20年7月に東京大学生産技術研究所客員教授に就任した建築家の豊田啓介氏。対談収録は20年3月に実施した。両氏のプロフィルは最終ページを参照(写真:日経クロステック)
左は、2019年に東京大学先端科学技術研究センター特任准教授に就任した吉村有司氏。右は、20年7月に東京大学生産技術研究所客員教授に就任した建築家の豊田啓介氏。対談収録は20年3月に実施した。両氏のプロフィルは最終ページを参照(写真:日経クロステック)
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豊田 今、日本でスマートシティーの話をすると、企業として既に持っている要素技術をどう使うかという近視眼的な営業とか、国交省がどうとかの話になってしまう。内閣府の「スーパーシティ法案」が成立して話題になっていますが、とりあえず助成金をいかに確保するかという以上の関心を示せない傾向が残念ながらあると思います。

 世界各国のスマートシティーのプロジェクトが、それぞれどう戦略的に、また構造的に異なって、どれぐらいの実効性を持ち、何が可能性で何が問題なのか。その実現を前提としたときに、ニーズとして、どういう技術領域の開拓が顕在化しつつあるのか。そういったことが驚くほど誰にも見えていないまま、ふわっと走ってしまっている感じがします。

吉村 日本の場合、第一に市民が関与している気配がありません。日本でも数年前にスマートシティーに対する関心が高まり、講演などのために呼ばれた経験があります。そのときに非常に違和感を持ったのは、なぜかスマートグリッドをはじめとするインフラの話に終始してしまうんですね。そこが欧州とは全く違うところだと感じました。

豊田 日本はスマート化の技術領域がエネルギーやセキュリティーのレイヤーに閉じている傾向が強いですよね。その閉じたところで個別のビジネス領域に細分化し、競合する企業がその領域を取り合っている。結局は既存のマーケットが先行する構図が崩れず、その先に何があるべきかのビジョンが語られることはほとんどない。そんな印象を受けます。

吉村 そう思います。大前提として、スペイン・バルセロナ市の場合は市民生活の質を上げるという目的を明確に打ち出しています。市民を中心とするまちづくりが「スマート」なんだと最初から言っている。

 数年前の話ですが、僕がコーディネートした神戸・バルセロナ連携国際ワークショップ(第1回、WORLD DATA VIZ CHALLENGE 2016)で、「なぜバルセロナ市役所はこれほどまでにオープンデータに力を入れているのですか?」という質問が出ました。その際、市の担当者が「オープンデータとは、もともと市民の皆さんのものだったデータを返すことだと考えています」と返答していたのが非常に印象的でした。

 何げない一言だったのですが、その場にいた我々日本人にかなりの衝撃を与えました。繰り返しますが、バルセロナではまず「市民生活の質」という明確で揺るぎないビジョンがあり、そこに向かって全てのプロジェクトが進んでいます。それは先のスーパーブロック(中編を参照)のようなフィジカルな都市計画から、シティーOS(都市のオペレーティングシステム)やオープンデータ戦略に至るまで一貫しているので、異なるプロジェクト間においてもポジティブなシナジーが生まれてくるのです。