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 都市開発や地域開発の分野で、スマートシティーやスーパーシティーといった名目によるデジタル技術の適用が急拡大している。それでは今、プロジェクトに携わる企業や自治体は、「データ連携」や「都市OS」に関する基礎的な理解を共有できているのか? 同分野の第一人者である東京大学大学院情報学環長・教授の越塚登氏に、建築家の豊田啓介氏がリアルな実態を聞き出す。

豊田 越塚先生の専門領域であるデータ連携や都市OS(オペレーティングシステム=基本ソフト)に関し、僕は様々な場所で議論してきました。

 でも実のところ、それらをどう定義したらいいか、いまだに分からないんです。いろいろなシステムや領域の話を聞くのですが、お互いの関係や階層がどうなっているかなど、全体像を理解しきれていません。

 日本でどんなシステムが主流になっていくのか、欧米の現状がどうなっているのかも、部分的な議論はあっても、なかなか体系化が難しい。今日はずうずうしくも、越塚先生にそれらを俯瞰的に教えていただけないかと思い、お邪魔しました。

 そのうえで、建築や都市の視点からそれらと情報との連携に関わっている僕の関心にも触れさせてください。特に3D空間記述のレイヤーと物理空間とを汎用性を持たせて接続する意義や可能性についてお尋ねしたいと考えています。

左が東京大学大学院情報学環長・教授の越塚登氏、右が建築家で東京大学生産技術研究所特任教授の豊田啓介氏(写真:日経クロステック)
左が東京大学大学院情報学環長・教授の越塚登氏、右が建築家で東京大学生産技術研究所特任教授の豊田啓介氏(写真:日経クロステック)
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[第1回のポイント]

 都市サービスを提供するために準拠すべき「主流」はあるのか。国や企業としてデータを管理したいとき、それは可能なのか。そして我々が扱っているデータの本質的な価値とは何か。今回は以下の3つの見解を示す。

1-1)「データ連携」の覇者は存在しない
1-2)データを守る「国境」は実在しない
1-3)データは最終的には物理的環境に依存する

1-1)「データ連携」の覇者は存在しない

豊田 都市サービスのためのデータには、当然多種多様なものが存在します。それらの連携と一口にいっても、場面に応じて全く異なる議論がされているのが現状です。

 スマートシティーや都市OSという言葉は半ばバズワードになりつつあります。みんなが口にするものの、その言葉が指す対象領域は時代ごと、プロジェクトごとに異なる。これがスマートシティー、これが都市OSという理解が社会の中で明確には共有されていません。

 例えば、どのレイヤーがどのレイヤーを包含しているのか、どのサービスが並列関係にあるのか。そういった言葉や領域の構造も、語る人や語られるプロジェクトによってまちまちな印象を受けます。

 日本、あるいは世界で主流になっている動きがあるのか。そこから教えていただけますか。

越塚 データ連携の主導権に関して勝負がついているかというと、そんな状況には全くなっていません。

 実態がどうなのかを混乱させる要因は、この業界や分野で議論されていることと、現実の間に随分差があるからです。こうありたいという願望も投影されて、現実と少しかけ離れてしまっています。

 とはいえ、なんだかんだ言って、データの多くはグローバル企業のクラウドに置いてあったり、データベースにオラクルを使っていたりする。何となく完全にグローバル勢に支配されてしまった感じがするのは仕方ありません。

豊田 グローバルなスケールでデータを扱おうとすると、サーバーなどの選択肢はどうしても、それが不可避になりつつありますよね。

越塚 欧州は少し違って、産業的にはGAFAM(Google/グーグル、Apple/アップル、Facebook/フェースブック、Amazon/アマゾン、Microsoft/マイクロソフト)から脱却を図る動きがある。EU(欧州連合)や政府もそこには力を入れている。データ連携だけでなく、欧州独自のプラットフォームを持とうとしている感じがします。

 欧州の業務システムに関しては、もともとはSAP(ドイツ・ヴァルドルフのソフトウエア企業)のシェアが大きいものの、クラウドサービスは得意ではない。彼らはその辺を巻き返したいはずです。

 データ連携に関しては、そうしたGAFAMに対抗しようとする欧州の動きがあって、さらに様々なスマートシティーの都市OSの話が重なってくる。それらがみんな入り組んでいて、なかなか分かりにくい部分がありますね。

「きちっと動くものをつくって成果を出す」

豊田 様々なデータがどう連携し得るのか。プロジェクトごとに与条件もニーズも異なるし、GAFAM主導かEU主導かでも基盤は異なってきます。そもそも一般的なデータ連携の総合版なんて、描けるものなのでしょうか?

越塚 描こうと思えば描ける。ただ、おっしゃる通り様々なものがあります。僕にも全体が分からないぐらいです。

豊田 国内だけでも、何が主流になっていくのかまだ見えてきそうにありませんね。

越塚 だから僕は、「気にしてもしょうがない」「気にする必要がない」と考えています。

 今のように混沌としているときは、きちっと動くものをつくって成果を出す。スモールスタートでもビッグスタートでも何でもいい、そこからですよ。まだまだ全体に、成果が表れて広まっているわけではありませんから。

1-2)データを守る「国境」は実在しない

日本の都市開発分野におけるデータ連携の「現実」を聞き出そうとする豊田氏と、応じる越塚氏(写真:日経クロステック)
日本の都市開発分野におけるデータ連携の「現実」を聞き出そうとする豊田氏と、応じる越塚氏(写真:日経クロステック)
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豊田 欧州では、アンチグーグル的な動きを戦略的に進める傾向があるようです。では欧州の場合、独立性を担保するためのデータセンターやサーバーを自前で持てる可能性はあるのでしょうか?

 結局最後には、米国の3大クラウド(アマゾン、グーグル、マイクロソフト)か中国のAlibaba(アリババ)辺りのサーバーに行き着かざるを得ない構図が浮かんでくる。なんだかんだと大規模サーバーを持っているところが強い、ということにはなりませんか?

越塚 そこは僕もよく分かりません。最終的にはどうする気なんだろうという疑問はあります。まず欧州は、パソコンやサーバーの機械そのものをつくっていないじゃないですか。

豊田 確かに、日本と近いイメージでいましたが、そういわれるとメーカーはありませんね。

越塚 欧州製のパソコンとかサーバーってないでしょ。中国であれば、情報通信機器については、HUAWEI(ファーウェイ)のような勢いのあるメーカーが存在します。

豊田 米国との摩擦の最前線になっている。それだけ脅威になっているということですよね。

越塚 日本の場合、ビジネスとしてはかなりシュリンクしたものの、自国でパソコンもサーバーもプロセッサーも含めてハードはつくれます。

 時々、欧州の人から、日本のITはすごいと言われます。コンピューターのハードをつくって売っている大手メーカーだけで4〜5社はある。我々(欧州)には自前のハードがない、世界に誇れるようなスーパーコンピューターもつくっていないという思いが彼らにはあるようです。

 日本の場合、国として何百億円か投じてクラウドセンターを用意するぞという話になったら、一応ハードは国内でも調達できるはずです。現に、スーパーコンピューターを自前でつくっています。欧州にはそれが難しいので、最終的にどうするのかなと。

「みんなで仲良くやっていくしかない」

豊田 データと聞くと空中を飛び交っているもののように感じがちです。ところがサーバーがどの国に置かれているのか、どの国のシステムを経由しているのかという問題が、現実問題としてクローズアップされてきた。意外なほどに物理環境がクリティカルなものだと認識され始めています。

 最近日本でも、LINEのユーザーデータの一部が韓国のサーバーに保管されているのが問題視される事案がありました。でもデータセンターやトラフィックを全て国内で完結できているサービスなんて、むしろ存在し得ないものですよね。

 システム全体を物理的にも技術的にも一国のみで管理できる仕組みというのは、今後つくり得るのでしょうか?

越塚 データが世界中を駆け巡っている限り、一国が全てを管理することは無理です。サーバーのハードウエアが米国に所在しても、日本から使うときの日米間の通信ケーブルは誰が敷いているのかを考えるなら、そこは結構、日本も頑張っています。

 一方、サービスやデータのレイヤーで頑張っているグーグルやマイクロソフトなども、最近では海底ケーブルを持つようになっています。ハードからソフト、データまで、多くの取り組みによってグローバルなクラウド網ができていますから、様々な国や企業による相互依存関係があります。

豊田 簡単に一方的に手を切ったりできる話ではない。まさにネットワーク社会ならではの価値の在り方ですね。

越塚 どこかで手を切ると、あっちが困るとか、こっちも困るとかみたいになる。だから、みんなで仲良くやっていくしかありません。

豊田 データというとついつい「小包み」でやり取りしているようにイメージしがちですが、離散的で流動的であるところが価値ですからね。ある種のデータだけでも国境を越えないようにするなんていっても、それを100%担保するシステムは現実にはあり得ないわけですね。

越塚 あり得ません。

 突き詰めるなら、そうした中で伝送されてきたデータを「我々が押さえている」とか「某社が押さえている」と主張することすら、本当はどれくらいの意味があるのかなという疑問を持っています。誰も心の中では、半分そう思っているのではないでしょうか。