2019年6月18日に発生した山形県沖地震。震源近くには、複数の免震ビルが立つ。日本免震構造協会によれば、免震建物は山形県に16棟、新潟県に40棟あるという。同協会の会長を務める和田章・東京工業大学名誉教授ら建築構造の専門家が6月20日、免震建物を中心に視察し、記者が同行した。免震建物は、いずれも地震発生直後から業務や生活を再開していた。和田名誉教授は、「震度6強」の観測記録と、被害の実態に乖離(かいり)があることに疑問を抱いた。まずは免震建物の状況から伝える。
山形県鶴岡市内に立つ「鶴岡市消防本部」は、11年3月26日に業務を開始した建物だ。地上5階建てで、延べ面積は約5609m2。鉄筋コンクリート(RC)造の庁舎棟と仮眠室棟、鉄骨(S)造の屋内訓練棟から成り、屋上にヘリポートを持つ。免震化しているのは庁舎棟のみで、他2棟は耐震構造として3棟をエキスパンションジョイントでつないでいる。免震部材には、積層ゴムとすべり支承を使用している。
地下の免震層には、罫書き(けがき)変位計や下げ振りによる変位計が設置されていた。罫書き計の記録によると、建物は南南西方向に2.2cm程度動き、最終的に東方向に1.3cm程度移動していた。
鶴岡市消防本部総務課の伊藤智康主査は、山形県沖地震が発生した直後の様子について次のように説明した。「執務室では棚が倒れるなどの被害はなく、地震発生直後から、通常通りの業務ができた。敷地周辺には、エレベーターが緊急停止して検査員が来るのを待っている建物もあったが、消防本部は2基のエレベーターがいずれも停止しなかった」
ただし、課題も見つかった。庁舎棟の周りにはクリアランスを設けており、今回の山形県沖地震によって敷地北東側で道路との境目にあるエキスパンションジョイントカバーが2~3mm浮き上がり、床面に起伏が生じた。和田名誉教授は、「エキスパンションジョイント部は、地震後の使い勝手を考えて注意深く設計すべきだ。竣工時に美しくても、地震後に段差が残る方法は勧められない」と語った。