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 今回は、ファナックが草創期にいち早くモジュラー戦略を採用し、飛躍の契機にしたことを紹介する。

 NC(数値制御)装置は多種多様な工作機械に付加されるために、もともと機械特性に合わせた特注度合いが強い製品であることは既に本コラムで説明した。にもかかわらず日本では、特注度合いが強いはずのNC装置を、そのまま素直に特注品として開発することはなかったのである。なぜならば、NC装置の開発を担ったのは他産業から参入したファナック(参入時は富士通の事業部門)のような専業メーカー(当時)だったので、標準的なNC装置を多くの工作機械メーカーに売りたいという合理的な動機が強く働いたからである。

 元来は特注度合いが強い製品を、標準化の思想で対応しようとすれば、矛盾が生じたであろう。この矛盾を解決するための設計戦略が、今でいうマスカスタマイゼーションである。そして、それを支えるのがモジュラー化の思想だ。実際、NC装置の革新史を改めて振り返ると、この産業は実に早くからモジュラー化を採用して、そのメリットを享受してきたということに気が付く。

 例えばハードワイヤード技術の時代、つまり米インテル(Intel)のMPUが誕生する前のトランジスタやコンデンサーを使っていた時代、ファナックは既にモジュラー化したNC装置を開発することでコストの大幅な削減に成功していた。その源流は1969年に出荷を開始した「ファナック260」に遡る。

 68年時点で483台にとどまっていたNC装置の出荷台数は、完全にモジュラー化したファナック260の出荷を開始した69年に1184台、翌70年には1684台と指数関数的に増加した。69年は、前年の何と約3倍のNC装置が売れたのである。この飛躍的な需要拡大の背景には、間違いなくモジュラー化の成功があった。

 ハードワイヤードNC装置のモジュラー化とは、具体的にどういうことか。ファナック260の例で見てみよう。同製品では、様々な工作機械に要求される仕様を詳細に分析して機能別に完結したモジュールを幾つかそろえて、それを量産してストックしておく。そして、ユーザーの要求に応じて適切なモジュールを柔軟に組み合わせることで、顧客の要求するNC装置を構成するという設計思想を採用した。

(出所:PIXTA)
(出所:PIXTA)

 各モジュールは、具体的にはトランジスタなどの論理素子や記憶素子を組み合わせて特定の機能を実現する電子回路であり、独立したプリント基板やユニットに収められている。このモジュラー化は、各種の論理素子や記憶素子などハードウエア回路を組み合わせて必要な機能を実現していることから、他方式と区別するために、あえてハードワイヤード・モジュールと呼ばれることもある。

 ファナック260は、3種類の基本コントロールユニット、9種類の基本オプション、約20種類の付加オプションを持ち、その組み合わせは6000万通り以上になる。モジュール間の接合部分はルール化されており、モジュールの接続は機器のねじ留めやケーブルのコネクターで行い、全てドライバーとスパナで組み立てられる。はんだ付けなど面倒な作業は一切不要だった。このような仕組みで、ファナック260はモジュラー化された。

 その結果、大きく3つのメリットがもたらされた。

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