山形庄内の魅力を体感する、田んぼに浮かぶホテル――。こんなコンセプトで、2018年にオープンした山形県鶴岡市の「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」(ショウナイホテル スイデンテラス、以下スイデンテラス)。建築家の坂茂氏が設計を手掛けた初のホテルで、周囲に広がる水田の景色を楽しみながら滞在できる。SHONAIは「庄内地方」を指し、鶴岡市や酒田市を含む山形県の日本海沿岸平野地域の呼び名だ。
中央の共用棟は混構造で、3つの宿泊棟とドーム状の温泉棟は木造だ。発注・運営者であるヤマガタデザイン代表取締役の山中大介氏は、「わざわざ鶴岡に来て、コンクリートの箱の中で過ごしたいとは誰も思わないだろうから、木でつくりたかった。耐用年数と融資期間の関係などから、そんな発想を実現しようとする人はいないらしく、世にも珍しい、日本最大級の木造ホテルが出来上がった」と笑う。敷地はもともと田んぼのため、地震などに備えて建設時に杭(くい)を深く打っており、2019年6月18日に発生した山形県沖地震での被害はなかった。共用棟は災害時の拠点にできるようにしている。
スイデンテラスの少し南側にある、同じくヤマガタデザインが運営する全天候型の児童施設「KIDS DOME SORAI」(キッズドーム ソライ、以下ソライ)も坂氏の設計だ。いずれも「鶴岡サイエンスパーク」内に立つ。新たな産業を生み出すことを目的に、鶴岡市が2001年から年間数億円を投じている一帯で、慶応義塾大学の先端生命科学研究所や、Spiber(スパイバー)をはじめとするバイオベンチャー企業が集まる。
開発予定地は21ヘクタールと広大だ。しかし、山中氏がまちづくりに取り組む前は、その3分の2に当たる14ヘクタールが未着手だった。