福岡を中心に1980年代生まれの若手建築家の活躍が目立ってきた。例えば、百枝優氏(百枝優建築設計事務所主宰)、そして佐々木翔氏(INTERMEDIA取締役)と慧氏(KEI SASAKI architects主宰)の兄弟。3人は、いずれも九州大学芸術工学部の土居義岳研究室の出身で、現在、同学部で非常勤講師を務めている。
2019年6月いっぱいで同大学を退職した土居義岳氏(現・九州大学名誉教授)は、建築史が専門ながら、設計教育に力を入れ、多くの置き土産を残している。
代表的な1つが、全国の学生たちの意欲的な設計案について議論する「デザインレビュー」だ。「建築を語る言葉が福岡にはない」という井本重美氏(IMOTOアーキテクツ)の働き掛けから、土居氏が立ち上げに尽力した。これは「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」のモデルにもなった。佐々木慧氏は、2010年のデザインレビューとせんだい日本一決定戦でともに2位に輝いている。
もう1つが、九州大学での土居流の設計課題。一辺25cmほどの立方体をどう分割するかを考えさせる。「卵(らん)が細胞分裂を繰り返すことで、生命体へと成長する。『始原の二分割』こそがあらゆる建築の原型」(土居氏)という考えに基づいている。そのうえで非常勤講師に具体的なテーマを設定してもらい、機能や敷地などに適合させる。手を動かしてリアルな設計を進め、その中で分析しながら空間の分割方法と結び付けて意味付けを行う。自分の設計を形式化し、言葉で説明する能力を重んじた。