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 ある企業のIT部門でセキュリティー対策を担当する技術者と雑談していたときのことだ。

 その技術者は自社へのサイバー攻撃の状況や対応策について話してくれたのだが、時折「攻撃者がいろいろと手口を変えてくるので、面白いですよ」などとセキュリティー担当者らしからぬセリフが飛び出す。私が思わず「楽しそうですね」と聞くと、「そりゃ、そうですよ。取材ならこんな話はしませんが、楽しまないと良い仕事はできませんからね」と笑顔が返ってきた。

 セキュリティー担当は緊張を強いられる仕事だ。サイバー攻撃を受けてシステムがダウンしたり、個人情報などが漏洩したりすると、企業は大変な打撃を受ける。担当者はサイバー攻撃への直接的な対処だけでなく、普段からセキュリティー関連の情報収集や技術習得を続けなければならないし、利用部門への啓発活動や教育訓練も欠かせない。「ストレスのかかる仕事を楽しめるとは、さすがプロだ」と感心したのを覚えている。

 話を聞いたのは5年も前のことだが、東京オリンピックを観戦していて、ふと思い出した。日本選手たちが口々に「競技(試合)を楽しみたい」と話していたからだ。大変なプレッシャーがかかる中であっても、言葉にうそはないはずだ。日本選手たちの好成績がそれを証明している。やはり楽しまないと良い結果にはつながらないのだ。

「失敗は許されない」が失敗を生む

 日本でITの現場に立つ技術者は、先ほど紹介したセキュリティー担当者のように仕事を楽しめているだろうか。多くの技術者はそうではあるまい。「システム障害は絶対に起こしてはならない」「サイバー攻撃を絶対に許してならない」といった失敗が許されない環境で働いており、仕事を楽しめない技術者は多いことだろう。

 ただ最近では、DX(デジタル変革)に取り組む必要性から、技術者が仕事を楽しめる環境をつくろうという企業も増えてきた。例えばIT部門とは別に、デジタル推進部門やデジタル子会社を設置する動きだ。デジタルサービスの創出を目指すために、技術者たちに失敗を恐れず挑戦できる場を用意しようというわけだ。